「なおされた」男

 

(私は生きていくのがいやになった・・・)

カーンカーンカーンカーン・・・・

男が踏み切りの向こうへふらふらと入って行く。

キキーーッ

電車がブレーキをかけたのは男から数十メートルも離れていないところだった。

ドガッ

無論、ブレーキは間に合わず、男は吹っ飛ばされた。

男は最期の瞬間何を見たのだろうか。

 

数年後

「・・・う無理だな、この人も。」

人の声に男は気付く。

(だれだ・・・?)

男は自分が寝かされている事に気付く。

しかし、目が開いているとは到底思えない。まったくの闇が、男が見える全てだった。

「もう四年半も意識失ってんだしなぁ・・・。」

「ったく、生きてんのか死んでんのかわからねえよ。」

(なんだ・・・?私は・・・一体・・・?)

男は必死に記憶をたどり始めた。
(そうだ、確か私は電車の前へ飛び込み・・・、死んだはずだ。)

しかし男は自分が生きていることを感じた。

(ここが・・・言うところの天国ならば私の目の前には闇ではなく夢のような世界が広がっているはずだ。)

男は間違っていなかった。

男がいたのは大型の病院の特別室。すでに四年の間男のためにその部屋は使われていた。

(私は生きているのか・・・)

一瞬男の思考は停止した。そして、死ねなかった苦しみと、生きているという喜びを同時に感じた。

しかし、次の瞬間男の耳にはとんでもない言葉が飛び込んできた。

「まあ、あと半年の間意識が戻らなければ法律上、安楽死が許されるからな。」

(・・・!?)

「まあ見ての通り目を覚ます様子はねえよ。」
(そんなばかな!)

男は必死で声を出そうとする。

(私はここにいる!生きているんだ!!!)

しかしそれは言葉になる事はなかった。男の口はすでに物を言う機能をなくしていた。

(くそ・・・!私は生きている・・・。生きているんだ!今思えば・・・、死にたくない!私はここにいる!気付いてくれ!!!)

ピッピッピッ

「ん・・・?」

男の血圧を示す値が突然上昇した。

「おい・・・、まさかこの人意識が戻っている・・・!?」

「何をしているんだ!早く先生と院長を呼んで来るんだ!」

「あ、ああ!」

そして、男は延命治療を受け、生きつづける事になった。

きっと、男が望んだことだから。

 

そして、さらに数年が過ぎた。

男はいまだに病院の一部屋にいた。

(私は、生きている。なんのために?)

(一度は捨てた命ではないのか?)

(この命、惜しくはない。)

(しかし死にたくはない・・・。)

男はその間多くの自問自答をした。

そしてその間、男の周りで聞こえる、恐らくは男の世話をするものであろう声は常に変わりつづけていった。

また、時たままったく違う声がする事もある。いくらか威厳を持った−悪く言えば威張った−声だ。

「こんな体でよく・・・。」「本当に生きているのか・・・?」「確かに興味深い・・・。」

男は自分がどのように見られているのかにも気付き始めていた。

 

そして・・・、さらに長い年月が過ぎていった。

男の周りに聞こえる声は徐々に少なくなっていった。学者たちはすでに新しいものへと興味を変えていったからだった。

もう、男がいつからここにいるのか、ましてや男の正体を知るものなどいなくなっていた。

 

そしてさらに長い年月がそう、途方もない年月が過ぎ去っていった。

人類の科学力はどんどん進み、男が子供の頃にはマンガの中でさえ想像し得なかった事さえ実現するようになっていった。

男はその頃また注目されるようになっていた。今自分たちのもつ科学力で男をどれだけ長く生かす事ができるかを、学者たちは実験しつづけた。

失敗と言う失敗は特になく、男はまさに生かされていた。

しかし、その熱が冷め始めると、今度は男の世話を機械によってできないか、が争点になった。

そして、男を世話する仕事が、一つ、また一つと機械による作業となっていった。

いつしか男の周りで聞こえるのは、機械音だけになっていった。

 

ドーンッ!

それはさらに長い年月が経った頃だった。

その日、爆発音が絶え間なく響いた。男の耳にもそれは届き、男はそれをようやく爆発音と理解した。

(・・・、いわゆる、核戦争と言うものか・・・。人類は、滅びてしまうのだろうか。そうなれば私の命運も尽きたものとなるのだろうな・・・。)

しかし男は生にすがるようになっていた。

(いやだ!私は死にたくはない!!)

生きることそのものが生甲斐になっていたのだった。

男の強い意思がそうしたのか、爆発音はやんだ。男は地下にいたため、無傷だった。

しかし、人類は核戦争により、滅びた。

しかし、男は生命維持機により、生きつづけた。

 

そして、さらに月日はいくらか流れた。これはそう長くはなかった。数週間と言うところだっただろうか。男には正確な体内時計はなかったため正確なところは分からない。

しかし、いくらかの時間は流れていた。

 

「オイ!仲間ダ!仲間ガマダイタゾ!」

よく聞かずともそれは人の声とは程遠い、コンピューターの発する声であることは分かった。

だが男は長い間人の声を聞いていなかった。

(おお・・・!生きているものがいた!今私は奇跡を信じた!)

男は自分が生きていること自体が、奇跡である事など忘れていた。

「今動ケルヨウニシテヤル。」

そして数週間後男は「なおった」。

「動ケル!話セルゾ!」

男の声もまた、人の声には程遠いものだった。しかしまだ男は気付いていなかった。

「ン・・・?」

男は自分を嬉しそうに取り囲んでいるものが、人ではない事に気付いた。

「ろぼっと・・・?」

男は脇のロボットを見る。

そのロボットは男とは左右逆に動く。男はそのロボットに近づいていく。そのロボットも近づいてくる。

手を、触れた。

「ーッ!?」

そのロボットは自分を鏡に映したものだった。

男はようやく気付いた。

男はロボットによって、「直された」のだった。

 

 

作:魁斗さん

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