第七十七話 本当の勝負

 

小山田「・・・川崎、か。」
俺はバッターボックスに立つと、もう一度素振りをした。
・・・ここで打たなければ、やばい。
小山田「・・・まさか君とこういう勝負出来る日が来るとは・・・」
小山田は静かに、しかし俺に確実に聞こえるような声で言った。
俺「・・・俺も、楽しみだったよ。君とこういう形で戦えるのが・・・」
俺も同じくらいの声で反した。
小山田「・・・いざ!」
俺「・・・勝負!」
小山田がセットポジションから振りかぶる。腕を引いて、横から腕を出す。サイドスロー。
俺もグリップを握り締め、構える。
第一球!
「ビュッ!」
「・・・バンッ!」
審判「ワンストライク!」
・・・まずは直球。
球速表示は141キロ。
実は、さっきまで直球の球速は最低125キロにまで落ち込んでいたが、ここに来て普段のスピードを取り戻してきた。
第二球、テンポ良く投げる!
「ビュッ!」
俺「・・・Hシンカーか・・・」
「キンッ!」
Hシンカーをカットする。
審判「ファールボール!」
これで追い込まれた。ツーストライク。
俺はもう一度、素振りをした。
次も多分、ストライクゾーンへ投げてくるだろう。
第三球!
「ビュッ!」
俺「・・・?」
俺は投球を見逃した。
・・・球が、ストライクゾーンを外れた。
審判「・・・ボール!」
斉藤君「・・・ボールだ。」
阿部「ボール。・・・ボール。」
占「・・・ボールだよね。」
小山田「・・・何年ぶりだろうな、自分の意思でボールゾーンに球を投げたのは・・・」
・・・ここに来て初めて、小山田はボールゾーンに球を投げた。
それは、3年間を通しても、一度も無かった事。
甲子園で竜王や力身を相手にしても、ただ、ストライクゾーンに投げ続けた小山田が、初めて、ボールゾーンに球を投げた。

仙田監督「・・・この戦いは、きっと彼に、小山田にとって・・・本当の勝負なのだろうな・・・」

・・・かつて、ここまで一打席に燃えた事があっただろうか。
・・・この三年間、いや、今まで生きてきた十八年間、そんな事はなかった。
・・・チームメイトには悪いかもしれないが、この勝負、負けても悔いは残らないだろうな・・・
・・・ならば、全力でいくだけだ・・・!
そんな気を込め、小山田はボールを握り締めた。

俺「・・・そっか、全力で、『勝負』するのか・・・」
俺は目を閉じ、つぶやいた。
俺「来いよ、来い・・・全身全霊、やってやるぜ!」
小山田、第四球!
「ビュッ!」
ストライクゾーンにHシンカーが投げ込まれる!
「キィン!」
審判「ファールボール!」
ここはカットする。
第五球!
「ビュッ!」
俺はスイングしていく・・・
しかし、ボールが外へ外れていくのを見ると、慌ててスイングをとめた。
ミットにボールがおさまると、審判は一塁側審判を指差す。一塁側審判にハーフスイングを判定してもらう合図。
一塁審判は・・・両腕を横に広げる。ボール。
そして、第六球!
「ビュッ!」
この球は内角のきわどいコースに迫ってくる。
俺はスイングしようかどうか迷ったが・・・結局バットをとめた。
審判は少し戸惑ったものの・・・
審判「ボール。」
ボールを出した。
これでフルカウントとなる。

・・・フルカウントからの第七球!
「ビュッ!」
外角低め、ストライクゾーンへのHスライダー。
小山田「・・・どうだ・・・!」



石原は、ミットを閉じた。
・・・・・しかし、そこにボールの感触は無かった。
代わりに、大きな金属音が鼓膜を揺らし、その音を脳へと伝えた。



「キーン!」



小山田は、石原のミットに向かっていくボールが、銀色の棒によって軌道を変えられ、その金属音がした瞬間、負けを感じた。

小山田「・・・負けた。」

打球は、左中間をまっしぐらに行った。
追い風を切り、舞い上がっていった。
そして、柵に当たり、バウンドした。

峯川「・・・ヒットやあぁぁ!!!」

占は三塁ベースと踏みながら、進行方向を完全に本塁へと切り替えた。
ボールが返ってくる様子は・・・当然ながら、まだ無い。
進む。

そして、五角形の、土で茶色く汚れたベースをしっかり踏みつけた。
貴重な、貴重な、1点が入った。

4対3。7回表、川崎のタイムリーツーベースで及川高校勝ち越し。

結局、4番打者、斉藤君は小山田に代わって登板した河内によって三振に取られ、スリーアウトチェンジ。

7回裏も三者凡退にとった。
試合は及川高校1点リードで8回へと移る。

 

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