25話 適任


パーン!!

「うん、いい球だ!!」

試合開始と同時に、二人は室内ブルペンに入っていた
3人ほど並んで投げれるような大きさになっているブルペン・・・、試合状況を逐一チェックできるようにモニターもついている
しかし、モニターは暗くなっていた
つけたらつけたで試合の状況が気になってしまう、それを嫌ってつけていなかった

「御鳥君のストレートは、変わってるなぁ・・・。」

数球受けたころ、ふと本重はそういった

「やっぱりそうみたいですね・・・、赤城さんにも言われたんですよ。
元メジャーリーガーの何とかって人のストレートに似ているって・・・・。」

「そうなんだ・・・。メジャーのことは良く分からないんだけど、変わってることに違いはないかな・・・。」

「具体的にはどんな違いなんですか?」

シュッ!!パーン!!

「そうだなぁ・・・、なんて言ったらいいんだろう・・・。」

本重は受け取ったボールを手に取り、眺めながら少し考え込んだ
そんなにややこしい球を投げてるのか?、煉矢はそう思った

「ジャイロ・・・。」

そう本重はつぶやいた
かすかなセリフだったが、なぜか煉矢は聞き取っていた

「ジャイロボールですか?」

「さすがに聞いたことはあるみたいだね。」

特殊な回転が微妙にボールに影響を与え、あるときは球が速くなり、またある時はかすかに変化したりもするものである

さらに、本重は続ける

「プロ野球とかでもよく、<カットボール>や<ツーシームファスト>といった呼ばれ方をしているボールがあるのを知っているかい?」

煉矢は野球は好きだが、プロ野球やメジャーには全く興味がなく返事は微妙だった
なぜなら、知ってはいるがプロ野球から知ったことではないからである

「プロ野球中継はあまり見ませんが、本で読んだことがあります。」

「そう。まぁだからどうと言うわけではないんだけどね、たぶん君のはその類じゃないかと思うんだ。」

言い回しは微妙だったが、本重は確信していた

本来ストレートは、リリース時に人差し指と中指で縦に手首のスナップから放たれるため、上向きの回転がかけられる
それが空気抵抗や気圧等の関係で、事実上もっとも直線的なボールになる、その関係が伸びにつながっていると言われている
しかし、煉矢のストレートはシュートに似ていた
いや、基本的なストレート回転を横から見た感じで直進しているというのが正しい
細かいことは分からないが、それはストレートより伸びはないが、ストレートよりは速い球になっている、そう本重はいった

無論、そんな付け焼刃の説明でわかるはずもなく、煉矢は理解できなかった

当然それは本重にも分かっていた
もし普通のストレートと投げ分けることが出来るのなら、いい武器になるかもね
そういって、再び腰を下ろし、ミットを構える

結果的に何もわからないまま、時間だけ過ぎていた

その後、数球投げ込んだとき、スピーカー音声が流れるチャイムのようなものがなった

「御鳥!本重!ちょっと、問題が発生した。すぐにベンチに来てくれ!!」

監督の声が、慌しく聴こえてきていた
その口調はただ事ではないことを物語っていることを感じた二人は、言葉を交わすこともなく目を合わせるや否やベンチに向かった







「監督、誰が牧場の代わりに入るんですか?」

ベンチでは、ケガで退場した牧場の代わりを考えていた
普通なら交代は監督の判断で行われるもの、いきなりこんなことが起こるとは当然誰も予想しておらず、少しざわついていた

「今、室内ブルペンの方に連絡しておいた。御鳥と本重もすぐ戻るはずだ。」

そのセリフから、赤城はセンターに本重を入れるんだな、そう思っていた
もちろん、本重はセンターがメインの外野手、当然と言えば当然である

そして、二人はベンチに戻ってきた

「何かあったんですか?」

戻ってくるや否や煉矢は尋ねた

赤城が先ほどの出来事を簡単に説明する。
途中、煉矢の表情が少しこわばっていたりもしたが、そこまで思い怪我ではないということを知り、気を持ち直した

そして、一通りの説明が済んだのを確認し、監督は口を開く

「えぇ、センターには五味に入ってもらう。そして、レフトにはライトの仙洞。で、ライトの方だが・・・。御鳥、いけるか?」

なぜか、指名されたのは本重ではなく煉矢であった
その場に居た誰もが驚いていた
どうして、御鳥なんだ?あいつはピッチャーじゃないのか?

「どうして俺なんですか?」

もっともな意見を当の本人が問う

たしかに、守備面、走塁面、打撃面。
いや、投手としての能力以外は完全に本重のほうがお前を上回っている、だが今必要なのは牧場が必死になって守ろうとした小松の勢いを、できる限りつなげることの出来る奴なんだと、それが一番適任なのはここにいる誰でもなくお前なのだ、と監督は言った

「そう・・・ですか・・・。」

煉矢の中にはなんともいえない感情が沸き起こっていた
今必要なのは、野球が上手いことより、勢いを絶つことなく、いやさらに勢い付けることの出来る人間
それが誰でなく、自分・・・。

「分かりました!任せてください!」

「よく言った。じゃあ、お前達!まだまだ序盤だ!行って来い!!」

そう強く言い放った顔には、自信が満ちているように思えた
そして、誰もがそれに答えんかのように雄たけびともいえる返事をし、グラウンドに散った

「彼の輝きには・・・かないませんね・・・。」

「なに、客観的に試合を見ているんだ?
お前は選手なんだ、出番に備えて準備しておけよ?今、必要だったのがたまたまあいつだっただけなんだ、落ち着いたらいくぞ。」

「は、はい!!」




試合はツーアウトランナーなしという場面で再開される
先に監督が述べたとおり、センターに五味、レフトに仙洞そして、ライトには煉矢が入っていた

「小松さん!頼みますよ!!」

開始早々、煉矢は声を張った
こういうことを期待しての起用だったんだなと、改めて思うものもいた

「あぁ!!全力でぶつかっていくだけだ!!」

大きく振りかぶる仕種は、さっきより小松を大きく見せている、受ける赤城のミットはバッターのインコース低目に構えられていた

−気合だけじゃ、勢いだけじゃ到底、敵う相手じゃないことは分かっている。
今もっている力を、全部、一球一球に注いでぶつかってやる!−

渾身の一球は、その右腕から投じられる

シャー!!!

打者も、きっちりと腕をたたみ身体の前で捕らえようと、バットを回して行った

ククッ!!

−超、高速からのスライダー・・・−

「飛燕!?」

ガキッ!!

「行ったぞ!神藤!ぼおっとしててポロすんなよ!!」

「何だって!?この俺がそんなことあるわけないでしょ!!」

つまった打球は、サード線を転々としている
サードとホームの中間あたりで捕球されたボールは、正確に送球され、スリーアウト
長い長い初回が終わった

 

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