天王山

 

その年の日本シリーズ。両チームは3勝3敗の互角で来ていた。そして、この7試合目。この試合、両チームはエースの先発できた。エース対決が、この年の野球の最後を飾る。まもなくプレイボール。

バシィ
練習から150を出す横浜の先発川星。まだ3年目だが新人王を皮切りにありとあらゆる賞を総なめにしてきた天才投手。
バシィ
ストッラックバッターアウッ
バシィ
ストッラックバッターアウッ
バシィ
ストッラックバッターアウッチェンジ
軽く3者三振に仕留める。

そして、裏。練習球はいらないとした、このロッテ先発投手は豪戸という。
この投手、常にマイペースが自慢の選手。そのためか彼はよくピンチを招く。しかし、どんなピンチも彼にとってはそれも一つの楽しみでしかないのだ。
この回も先頭の小堺にツーベースを打たれると、2番の送り晩とを上手く処理できず、ノーアウト1、3塁。3番はかろうじて三振に仕留めたものの四番尾井を歩かせてしまった。
さあ、豪戸の好きなピンチをむかえた。このピンチ、作られるたびにロッテファンはビビる。それでもそのピンチを抑えると歓喜に満ちるのだ。
そう、そのピンチ強くなるのが豪戸。そしてその球はいくらか遅く見えるとはいえ、とてつもなく重いのだ。
ガキィ
ジャストミートしたはずのその球はピッチャー前へ転がっていった。すでにダッシュしている豪戸は捕るとすぐホームへ、そしてファーストへ。@―A―Bのきれいなダブルプレー
イニングはまた入れ替わった。

4回、ここまでやはり投手戦、0−0だ。しかし、投手戦は見ごたえがないと言われるが、この試合は違った。川星は三振の山、豪戸はピンチを抑えるその気力。プロ野球史上、いや、全野球史上最も見ごたえのある試合だった。

カキーン
川星がついに打たれた。三遊間を抜ける痛烈な当たり!打った2番長谷川も驚いてる。
次の3番間はサードゴロ。その間に長谷川は2塁へ。
さあて、初のピンチ。川星、4番広角を抑えられるか?
初球、そのキレのあるスライダーはストライクと見違え、広角は振ってしまいストライク。
2球目、ストレートが外れた。
3球目、153キロのストレートをかろうじてバットに当てファール。
そして、4球目。
ギュオオオ
川星の渾身の一球は牙をむいた。
バットをへし折りミットへ入った。恐ろしい球だ。
そのストレートは159キロを記録した。

カーン
この回もピンチをむかえる。しかし、いつもとは違うような気がした。
やはり、違った。本性の豪戸をあらわした。
バキィ
ストラックバッターアウッチェンジ
今までの140前半のストレートとは比べ物にならない158キロ。
のち、彼は、最初から本気ではつまらない。プライドが許さなかったが。と発言した。
そして、この試合以後、150キロ以上は出さなかった。
球場は騒然とした。そして気付く。もしこのままこの試合12回同点引き分けになったらどうなるのか、と。

ガキィ
振り回していればいつかは当たる。確かにそのとおりだ。しかし、当たっても飛ばない。次第に両チームはゴロの山を築き始めた。

9回、ついにここまで来た。先頭の市原が痛烈な二遊間を抜ける当たりで出塁。川星にいくらか疲れの見えてきた。それでも下位の9番を押さえツーアウトにした。その間に市原は2塁へ。
そして1番木村が打席に立つ。ホームランの打てる1番として有名なこの木村。さあ打つか?
キーン
ボールは良い角度で上がっていった。飛距離は十分。しかし、打球はポール際へ。外か、内か?
ファール
結局わずかに外れた。
ここでサインが出た。そのサインは盗塁。確かにビッグチャンスが出来るが。失敗したら終わり。
ザッ
モーションに入ると同時に走る。しかし、3盗はなかなか難しい。
バシィ
ピシュッ
キャッチャー捕ってすぐに投げる!
バシッ
ザッ
セーフか?アウトか?
セーフ
間一髪のセーフ。本当にギリギリだった。
しかし、これで打者林はツーストライク。スクイズは・・・、難しい。
そして、その3球目。
カキーン
センターへ飛んでいく。
これならファールはないが、その代わり飛距離が・・・、微妙だ。センター深井、一か八かのジャンプ!
ホームに迫っていた市原、急いで戻る。
パシィ
捕った!しかし、着地時にバランスを崩した。それを見るや3塁ベースに戻れた市原はホームへ突撃!ボールは帰ってこない。ホームはセーフになった。ついに、均衡の崩れる1点が入った。
ここで、川星は代わった。8回2/1で17三振1失点。川星には、忘れられない試合になるだろう。
抑えのエース上村は最後の打者を内野フライに抑えた。
さあ、最終回だ!

さっきの回までしばらく速球中心の投球だった豪戸は突如として変化球主体に戻した。争う相手もいなくなり、元に戻したというところだろう。
さっさとツーアウトになったここで、代打攻勢に出た。まずは金井。今年代打での成績は、4割2分、7ホーマーのまさに代打の切り札。その金井、レフト前に上手い流し打ちで出塁した。
さらに代打・・・、その打者は・・・、美田!誰がそれを考え付いたか。美田は、今年1年怪我で棒に振った選手。まさか、ここでの代打とは・・・、この場での復活戦とは・・・。
しかし、豪戸に手加減をする余裕はない。もちろんする気もない。
その勝負1球目。
バシィ
また速球主体へ戻した。その球は152キロを記録した。152キロ、9回にして、152キロである!無限のスタミナを有する豪戸。
しかし、その相手、見たにもそれに対抗する気力はある。
この勝負、過去にない、いや、過去にも、未来にも、起こり得ないだろう最高峰のショーだ!
そして、2球目!
ビシュッ ギュオオオ
カキーン
打った!打球はセンターへ飛んでいく・・・。飛距離は・・・微妙だ・・・。でも、この場面どこかで・・・。さっきの回だ!その時と同じようにセンタージャンプ!入ったか?捕ったか?
試合は終わった。

この話は、あるとき、ある場所での話。
野球はドラマ。野球はドラマ。ドラマにも色々ある。声のないドラマもその一つ。
そう、本当なら、声なんていらない。
そして、今もどこかで誰かが野球をしている。

 

作:魁斗さん

小説メニューに戻る

ホームに戻る

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送