首脳陣現る

_______________________5月1週_______________________


川端西高校には「仮入部」といういわばお試し期間のような制度があって、その期間中はどこのクラブの練習でも自由に体験することが出来る。
そして10日間の仮入部も終わり、いよいよ今日は本入部の日。南条はもちろん野球部に入部する。まず手始めにキャプテンと監督からあいさつがあるそうだ。
不思議といえば不思議な話だが、今まで南条はキャプテンも監督もしっかりとは見たことなかった。
特に監督は、グラウンドに姿すら現していなかったようにも思う。

「なあ新月、ここの監督ってどんな人なんだ?」
「俺に聞かれても一年やしなぁ・・・・・・・・詳しいことは知らんけどいっぺん潰れたここの野球部を立て直した、とかいう話を聞いたような気がするわ」
「ジョーは何も知らないのか?」
ファーストコンタクトからまだ数日なのに、この二人とはかなり話すようになった。最初は冷静に新月を止めていた刈田も、すでにあだ名で南条を呼び始めている。
「知らないも何も・・・・・・見たことないからなぁ・・・・・」



そうこうしているうちにキャプテンが整列した一年生の前に出てきた。
「俺がキャプテンの
浅越(あさごえ)だ。今からちょっと話をしたいと思う」
背はやや低めだが、しっかりしてそうな人だ。
「まず初めに言っておく。ここの野球部では上下関係は最小限に守ってくれさえすればいい。というかあまり気にするな。昔バタ西の野球部は先輩の権力が異様に強かった。下級生に無茶な命令をしたり暴力が日常的に振られたり・・・・・言葉で言うのは簡単だがとにかくものすごかったらしい。ほとんど不良の溜まり場みたいになってたそうだ。」
一年生は皆真剣に浅越さんの話を聞いていた。

「それで野球部はどんどん堕落していって・・・・・ついには新入部員も入らなくなって休部してしまった。今から5年前の話だ。それを立て直した今の監督が率いるのがこの野球部だ。監督は協調と競争をモットーに新入生、つまり今の2年、3年生をまとめ上げた。そして去年の地方大会では
ベスト4に入るまでになってしまった。今この部は乗っている。みんなで甲子園に行こう!俺からは以上だ」
「はい!」
「さ、気合も入ったところで監督にあいさつをしてもらおう。監督、どうぞ」


ベンチ裏から年は50ぐらいの人がにこやかな表情で出てきた。
「1年生の皆さんこんにちは。・・・わしの方から特に話は無い。浅越に全部持ってかれてしもたからな。おい浅越、ちょっとは後にしゃべるのやつの事も考え!」
「すいません」
「でもまあええスピーチやったからな。ええか。おい寝てた奴おらんかったやろな、後で知らん言うても誰も教えへんぞ」
監督も関西弁か。

「そういえば新月って関西弁使ってるけど大阪もんか?」
「そや。あっこはなかなか激戦区やからな。たぶんここの地区やったらまだ甲子園にも出やすいやろ?ようある『野球留学』やな。」
「こら!そこ何をごちゃごちゃ言うとる!話すんやったら外で話せ!」
監督から怒声が飛んだ。ここも外なんだけどな・・・・・・・

「さてと、一つだけやってもらうことがある。一年生諸君はみなこのバンドをつけろ。チタン製や。」
血行をよくする効果があるので一時期ブームにもなったチタンバンド。しかしなんでいちいちこういう場で配るんだろう・・・・・一年生はチタンバンドを受け取った。こんな刺繍がしてあった「Let's goバタ西!目指すは甲子園や!」・・・・・・何これ?皆不思議そうな顔をしていた。ただ一人を除いて。


「というわけで話は終わり。なんか質問あるやつおるか?何でも聞いてええぞ」
チタンバンドが配られたときただ一人異常に目を輝かせていた男、新月が即座に手を上げた。
「監督、このバンドは一体どこで買えばええんですか?」
「お、気に入ったんか。それならうちにようけあるぞ。一つ1500円や。ちなみに今配ったんも後で金払うてもらうからな」
やられた・・・・・商売目的かよ・・・・・。南条もひとつ気になっていたことがあるので聞いてみた。

「なんで先輩みんな背番号無しなんですか?」
「ああ、それか。浅越も言うてたとおりわしのモットーは協調と競争やからな。大会までには一切背番号なし!大会が終われば背番号は全部撤去!・・・レギュラーだから安心、なんて気持ちは甘えにつながるかも知れんからな。常に競争や!はい、質問終わり。あとは各自練習メニューをこなせ。以上」

なるほど。さすがに短期間でチームを育てた監督だけあってその辺はしっかりしてる、のかな。

 

 

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