バタ西のイチロー、でかい人

 

_________________6月中旬___________________


「・・・・・・・・・・・・ぬぅー・・・・・・・・・・・・」

南条は必死である人を探していた。ガッシリして老け顔の木田さん。
特徴のある人だから一発で覚えてしまったが・・・・・いない。
でも野球部って言ってたよな・・・・・たぶんどこかにいるはずなんだよな・・・・・


灯台下暗しとはよく言うが、このときまだ南条は、そして刈田も、あるひとつの重要なことを調べようとしなかった。




一通りの練習を終えてダウンに入った。今日も外を走ってみた。
あの人はまた走っていた・・・・・・ん?あれは・・・・・

「おう南条、元気か」
「はい。あの、その犬」
「ああこれか。こいつはジョージ。世界でも数少ないジョギング犬だ」

「・・・って犬ならどれでも走れますし全部「ジョギング犬」なんじゃ・・・・」
「ん、まあ細かいことは気にするな」
何のへんてつもない普通の犬、ジョージは不思議そうに南条を見上げていた。

「ところで木田さんってどこのポジションなんですか?」
「俺か?俺は・・・・・・ま、それはわかってからのお楽しみ、ってことで」
刈田の言うとおり本当にベンチ外選手だったりして・・・・・



そこへ後ろの方から足音がした。そしてあっという間に木田の横に現れた。

島田さんだった。しかしその島田さんはとんでもない行動に出た。

「やあトッシー!」
本当に「トッシー」って呼んでるよ・・・確か島田さんって2年生だよな・・・
「おお島ちゃん、がんばってるか?」
「それが今大変で・・・・・・ああ!もう来た!」

浅越さんが走ってきた。
「おい島田!!また勝手に練習サボりやがって!今日こそ特守だ!容赦せんから覚
悟しとけよ!!」
「いや、あれはやっぱりこうメニューに問題がない気もしないでもないかなと」
「あーもうごちゃごちゃ言うな!!!全く本当にお前は・・・・・・」
「すんません・・・」
浅越さんの勢いに押されて島田さんは素直に従った。と言うか浅越さんも大変だなぁ・・・・・・



「島ちゃーん!達者でやれよー!!・・・・・・全くあいつももう少しまじめにやれば絶対レギュラーいけるのに。センスはあるんだから」

「木田さんって3年生ですよね」
「そうだ。よく覚えてたな」
「いや、それぐらいは・・・・・で、島田さんって2年生ですよね。「トッシー」とか言ってましたけど・・・・いいんですか?」
「ああ、あいつと俺の仲だからな、OKOK。お前も使いたかったら使っていいぞ。他の一年生にもよろしくな」

さすがにその度胸は無いな・・・・・そして木田さんはまたいきなり走り去って行った。




グラウンドに戻ってみると、島田さんがノックを受けていた。そしてまた新月も居残らされているようだ。いつものこの時間帯の通り、足元がおぼつかない。

「島田さんって外野手なんですね」
「そうそう。ってお前とはまだちゃんと話してなかったな。俺はバタ西の外野手島田昭。「バタ西のイチロー」とは俺のことだ。」
なんか似たようなセリフをどっかで聞いたことがあるぞ・・・・・

「今年の1番センターは俺だからな。そしてバタ西の台風の目になるのも俺だ。よーく覚えて置け。損は無いぞ。」
うーん、ますますあいつに似ているなぁ・・・・・・気が合いそうだ。



「よーし、ショート、上がっていいぞ!」
「ありがとございましたぁ・・・・・ゲホッ」
「あいつ」はふらふらとベンチへ帰っていった。

「ちょっと最近やりすぎたな。しばらく休ませよう。っておい!センターはまだ上がるな!
 ・・・・・・目をはなすヒマもないな。よしセンター行くぞ!」
「南条。今から俺をよく見ておけ。これが外野守備だ・・・・・おっ来た!」
というと同時に、島田さんは打球に向かって颯爽と走り出した。

すごく速い。新月といい勝負か、もしかしたら上ぐらいじゃないか。
左中間ちょっと深めの厳しいところに飛んでいたが・・・・・捕った。すごい。確かにバタ西のイチローというだけはある。

そして振りかぶってキャッチャーについていた(つかされていた?)藤谷さんに左上手投げからレーザービームスロー!
・・・・・・・というほど強くはなかった。ごく普通か弱いぐらいの返球が本塁に向かって・・・・・・それでもかなり正確にミットにおさまった。

「どうだ、びびったか?」
いちいちこうやって聞いてくるところがちょっとあれだなぁ・・・・・





もう日も沈んで街灯がついている。校門へと向かっている途中、よそ見をしていて人とぶつかってしまった。
それは、とてつもなく大きな人だった。
身長にして190cmはありそうだ。左こぶしにナックルをつけている。・・・・・やばい!これはもしかして・・・・・・

「す、すいません!」
「・・・おい、どこ見て歩いてるんだよ」
鋭くにらみつけられた。たぶんこれは、うわさに聞く土方(ひじかた)さんだ。
その体格と筋力で2年生ながらすでに番長らしい。族の頭が子分だとか前科者だとかとにかく周りに怖い噂が耐えない。とにかく謝るしかないだろう。ピンチだ・・・


「・・・1年だよなぁ?おい」
うわっ、襟首つかまれた!長い左腕が南条をつかんだ。もう終わりだ・・・・・

そのとき、土方さんの眼光が少し変化した。視線は何条の右手首に向けられた。
「ん?それは・・・お前、野球部か?」
「あ、は、はい、そ、そうです」
「・・・・・」

土方さんは何も言わず去っていった。・・・・・なんだったんだろう。悲しそうな目をしていたような気もする。
でも、とにかく助かった。


これからは前に気をつけて歩こう。南条はその後も警戒しつつ家へと帰った。

 

 

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