そろそろ総仕上げ

 

_________________7月1週__________________


ふぅ・・・・・眠い・・・・・・
背後から新聞をたくさん積んだ自転車が通り過ぎていく。朝4時50分。
刈田は昨日サクセスをやったことを後悔した。あれは一旦やりだすと止められないからな・・・・・・気をつけないと・・・・・・



今日は朝練の日だ。と言っても、始業前に朝練はほぼ毎日やっている。
その朝練は7時開始。ホームルームが始まるのが8時30分なので、軽く体を動かす程度だ。

しかし今日は5時からみっちりやるらしい。きつい。「超」朝練、とでも言おうか。
もうこれからは絶対早く寝るぞ、と改めて決意したとき、後ろから誰かに肩を叩かれた。木田さんだった。


「よぉ刈田!・・・何だ、亡霊みたいな顔して。朝飯食ってないのか?」
「そういうわけでもないんですけど・・・・あ、おはようございます。」
「体調管理ぐらいちゃんとしろよ。ほれ、走るぞ」

木田さんに引っ張られて、荷物を抱えながら走った。ちなみに木田さんは手ぶらだ。

「よし。そろそろ体も温まってきた。今日はなんか寒いな」
「あの、木田さん、いったい何時ぐらいから走ってるんですか?」
「そうだな・・・3時半ぐらいからだったか」
「なるほど・・・・えっ!?3時半!?」
「ちょっと早く起きすぎてな。人間、年取ったら睡眠時間要らないからな」

おじいちゃんかよ・・・・・本当に若さがないなぁこの人は・・・・
それにしてもこの人には走っているイメージしかない。と言うより走っているところしか見たことがない。
まさか毎日これぐらいの時間から走ってるのか・・・・・

いまだにポジションはわからないし・・・・・・・とにかく不思議な人だ




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午後の部活。珍しく監督が来ていた。珍しく、って言うのもおかしな話だ・・・・
いったいいつも何をしているのだろう。

とにかく試合がもう近い。甲子園をかけた予選まで2週間を切った。そろそろレギュラーを発表する頃だ。
そういうことで、今日は実戦打撃をするらしい。監督はいつになく真剣なまなざしでケージを見つめていた。



谷嶋さんが打っていた。なかなかパワーがある。
特に左方向、引っ張った側によく飛んでいる。たぶん中軸打者だろう。4番ピッチャー、かな。

打ち終わって、次は角屋さんが入るようだ。
まだ2年生だけど打撃の上手さは目を引くものがある。内角のあのコースの球をあれだけさばける人はそういないだろう。レギュラー入りと見て間違いないだろうと思う。

ミートを調整しているのだろうか。センターから右を中心に打っている。
しかし時々強振して放つ打球は鋭く外野へと突き刺さっていった。



「相変わらずおとなしい振りしとるなぁ。もっとガツンと打たんかいガツンと。なあ刈田」
島田さんがバットを持って後ろから声をかけてきた。

「島田さんはいつ打つんですか?」
「次の次、かな。まあよく見とけよー。「バタ西のイチロー」の振りのシャープさはもうメジャーレベルだぞ」
いくらなんでも言いすぎだろそれは・・・でもどんなバッティングをするか見てみたい。



「よし!次は島田!早よ入れ!」
「任しといてください。よろしくお願いします!」

島田さんが左バッターボックスに入った。どんなフォームだろう?
まさかイチローだからって振り子打法で行ったりはしないよな・・・・・・・・え?クラウチング?しかも相当激しい。うーん・・・・・・・イチロー?・・・・・・

そしてピッチャーがボールを放った。ちょっと高めの甘いコース、チャンスだ!
「ヴォン!」
・・・・・・あっちゃー・・・すごい大振り・・・・あれで当たるのかな・・・・・・確かに振りは鋭いけど・・・・・

その後も島田さんは人間扇風機と化し、豪快な空振りをし続けた。何がどうイチローなんだろう・・・・・・


「おーい島田!。まじめにやれよ!・・・・・これ以上振っても無駄だ、早く変われ」
ピッチャーがたまりかねて苦情を言った。

「ああ、すんません。あと3球、3球だけお願いします。絶対特大ホームラン飛ばしますから」
「全く・・・そういって本当に打つからなかなか強く言えないんだよな・・・・・」

本当に打つ?特大ホームランを、かな。・・・と思った瞬間、グラウンドに鋭い打球音が響き渡った。


「よっしゃー!!行った行った!!」
島田さんはもう確信している。確かにいい角度では上がってるけど距離は・・・・ん?伸びてるぞ?・・・・・あれ?落ちないぞ?・・・・・えっ!?・・・・・・打球は裏山の方へ消えて行った。すげぇ・・・・・・

「よしよし。今日も150メートル弾。監督、どうでした?」
「いやいやいくらなんでも150は大げさやけど・・・・ま、130前後はいっとるんちゃう?上出来上出来。」

上出来なんてもんじゃない。そんなに体は大きくないのに恐ろしいパワーだ。当たったら間違いなく・・・・怖っ・・・・・・・





「そろそろバッター相手に投げ込んどいた方がええんちゃうか?」
「そうですね。できれば。」
「よし決まりや。そうやな相手は・・・・・南条!お前行け!」

よく聞こえていないらしい。ジョーは黙々とトスバッティングをしていた。
「おい無視すんな!聞こえてへんのか!?」
「え、あ!すいません!なんでしょうか?」
「バッティングやバッティング。早よケージ入れ!遠慮せんと打ってええぞ。真剣勝負や!」


それを聞いて南条は軽い足取りで装備し始めた。
「おい刈田、ついに思いっきり打てるぞ。お先失礼!」
「・・・・思いっきり、はたぶん無理だな。まあがんばれ」

なんで「思いっきり」は無理なんだろう・・・・・・・
その理由は対戦相手を見て、一発でわかった。・・・・・・え!?ほんとにやる
の!?

 

 

 

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