ギャップ

 

バランスの整ったフォーム。しなやかに繰り出されるストレート。
落差は小さいけどきちんと制球されるカーブ。マウンドに立っていたのは谷嶋さんだった。


「か、監督!いくらなんでも最初から・・・・・無茶ですよ!」
「そうですよ!ジョーは今日始めて実戦打撃を・・・」
二人の1年生は激しく狼狽していた。だが監督は気にする様子もない。

「ん?ああ。まあいけるんちゃう?わしも全くお前らの力を見ずにここに来とるわけやないしな。南条やったら何とかなるはずやで」
いったい何を根拠にそんな・・・・・

「おーい南条!他のやつに代わるのか!もう肩はできてるぞ!」
そうだ、このまま谷嶋さんを待たせておくわけには行かない。三振してもいい、と言うかそれが当然だけどとにかく打ってみよう。

南条は覚悟を決めて左バッターボックスに入った。




谷嶋さんが振りかぶる。ついにくる。ついにあの常に130キロ後半の速球が来る。
覚悟は決めたとは言ってもやっぱり怖い・・・・そして、谷嶋さんの腕が鋭く振り下ろされる。

「シューーーーーーーバンッ!」

速っ・・・・・・い?あれ?思ったほどじゃない・・・・確かに速いことは速いけど・・・・・

「ボール!」
「あっとミスった・・・・・結構球見えてるじゃねーか」
もちろんそんな余裕は無い。なすすべもなく見逃してしまっただけ。しかし・・・

「まあこれから3球でしとめてやる。覚悟しとけよ!」
「うんうん。そういう度胸は健在みたいやな」
監督がちょっと嬉しそうにうなずく。

その間に二球目が投じられた。やや外角のストレート。しかしコースは甘い。いける!
「チッ!」
ファールになった。だが、ワンバウンドして後方に飛んでいる。バットの下に当たったみたいだ・・・・・やっぱり・・・・・・

もしかしたら打てるかもしれない。かすかな希望が頭をよぎった。


3球目。内角の球。これも高い。要するに・・・・絶好球だ!よし!
と思いきや、クッ、とバッターよりに軌道を変えた。カーブか。南条はバットを止めた。だが
「ストライク!」
「えっ?」

「今のは絶妙なストライクですね。ベースをかすってから外にでました。」
球を受けていた藤谷さんが解説する。やはりそう簡単には・・・・



「あいつはなぁ、コントロールはいいんやけどなぁ・・・・・」
監督がつぶやいたその言葉を、刈田は不思議に思った。

「え?ストレートもかなり速いじゃないですか。」
「速いことは速いんやけど・・・・・」

4球目が放たれた。これは間違いなくストレート・・・・・うわっ、厳しい!
かなり近めに球が来た。しかも相当高い。でもストライクのような気もする。どうしよう、どうしよう・・・とりあえず振るか!

「キンッ!」
「あっ!」

・・・・・・当たった。当たった?うそ!?
「おうおう、かなり飛んどるなぁ・・・・・おーい!!センターバックや!!!」

島田さんがものすごい速さで追いかけていた。でも追いつきそうにない・・・・・
いや、飛びついた!?
島田さんはグローブをこちらに向けて振った。ボールが入っている。

「アウト!センターフライや!残念やったな!」
うーん、さすがにきつかったか・・・それにしても島田さんの守備、すごかったな・・・



「ありがとうございました!」
相手を務めてくれた谷嶋さんに一礼した。だが、谷嶋さんは崩れてうなだれていた。あれ?

「・・・・あいつはな、速いことは速いねん。でも・・・・・・軽いんや」
監督がぼそっとつぶやいた。








うーん南条もなかなかやるな。こりゃ俺ものんびりしてられんぞ。

今は刈田が打っているみたいやな。それにしても、あいつ下手やなぁ、なんやねん、全くついていけてないやないか。俺が後で手本みしたるとするか。あのヘタレバッティングじゃ監督もさぞがっかりやろうなぁ・・・・・・ん?

監督と浅越さんが深刻な顔で話し込んでいる。なんやろ?ちょっと聞いてみよ。


「・・・やっぱりきついですかね・・・」
「そやな、南条のバッティングがええのも確かや。だがあのコースを1年にあっこまで飛ばされるようではなぁ・・・・・」
「打ち取れたのはほとんど島田のおかげですしね・・・・・」

「・・・・・まあ競争の世界や。しゃあない。今年もあいつに頼るか」
「ええ。バタ西の左腕エース。俺はまだ仕上がり見てませんけどね」
「仕上がりか?ものすごいで。たぶんびっくりするわ」

こっそり聞いていた新月の脳が一気に回転し始めた。
左腕エース・・・・・え?谷嶋さんって右腕やんな。その人に「今年も」?・・・・・まさか・・・・・


           エースは別にいる。


新月は確信した。主戦投手は谷嶋さんや無い。

だけど、やとしたら誰やねん・・・・・あれ以上の球を投げれる人はこの学校には・・・・・

 

 

 

第一章メニューに戻る

小説メニューに戻る

ホームに戻る

 

 


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送