報告、実はあの人が

 

 

それにしてもさっぱり打てなかったな・・・・・・・

実戦打撃を終え帰路についている刈田はものすごくヘコんでいた。
「トスからやり直せ!か・・・・・その通りだな・・・・・」

昔から守備には自信があった。中学時代もそれだけで1年生ながらレギュラーをとってしまったほどだった。
高校に入って硬球になって、戸惑ったのは最初の2日ぐらいで、恐ろしいスピードで速い打球に対応していった。
南条や他の1年生、浅越さんを初めとした上級生も、刈田は守備の天才じゃないかとささやいていた。

だがことバッティングになると・・・・・まったくついていけない。中学の頃からそんなに得意じゃなかったけどそれにしても・・・・・


「よぉ!下向いて歩くなよ、危ないぞ!」
木田さんが後ろから声をかけてきた。

「もしかして落ち込んでるのか?よしよし、なんでも相談に乗ってやるぞ?」
展開速いなぁ・・・・でもなんか頼りになりそうだ。話してみようかな。

「実は今日実戦打撃があったんですけど・・・・全く硬球についていけなくて・・・・・」
「・・・・そうか・・・・まあそれは慣れるしかないな。ありきたりなことしか言えなくてすまんけど。・・・・とにかくまあ、怖がらないことだ。どんどんぶつかっていけ。と言ってもデットボールをガンガン受けろ、ってんじゃないぞ。積極的に行けば・・・・・なんでも何とかなるさ」
「はぁ・・・」

「それに俺なんか今でもあんましついていけないしな!」
木田さんは胸を叩いてそう言った。自慢することでもないだろうけど・・・・・
「なんかよくわからないんですけど・・・・ありがとうございました。」
「ん?少しは役に立ったか?とにかくがんばれよ。」


そのとき刈田のバックの、ファスナーをちょっとあけていたところから球がこぼれ
出た。傾いている道にそってボールは転がっていった。

「あっ、しまった」
「ちょっと待て、お前は疲れているだろ。取りにいってやるよ」
結構勢いがついたボールを、5メートルほど先で木田さんが取った。左手で。
「ほらよ、ファスナーはちゃんと閉めとけよ」

「・・・・あの、木田さんってもしかして左利きなんですか?」
「ああ、そうそう、ぎっちょだ。こいつに小学3年ぐらいまで苦労させられてなぁ・・・・鉛筆は持ちにくいし先生には怒られるしで・・・・・いまだに完全には右手を使い切れてないんだなこれが。」
左利き?そこで刈田は新月の言っていたことを思い出した。監督と浅越さんが衝撃の事実を話していたそうだ。まさか、あいつが言ってたのって・・・・・

「木田さん・・・・あれ?」
もう走り去っていた。見えることは見えるがしんどいから追いかけるのはあきらめよう。

でも・・・・・明日ちょっと報告しないと。





新月は去年の新聞を調べていた。刈田に頼まれた仕事だ。
しっかしめんどいなぁ・・・・・何が「野球は情報戦だ。相手を少しでも知ることが勝利への近道」やねん・・・・・まあ確かにそうかも知れんけど・・・・

新島県大会、新島県大会・・・・・・おっ、あった。ははぁ、去年は陽陵学園、ってところが優勝したんか。
ふーん、「2年生エース庄原、必殺お化けフォークで零封」か。2年生、ってことは今年も当たることになるかも知れんなぁ。
それにしても俺ここの地方のことなんてなんも知らんからな。庄原ってピッチャーも去年甲子園に出てたかも知れんけど・・・・基本的に新島県って弱いからな・・・・ぜんぜん注目してなかったわ・・・・・


そういえばバタ西ってどうなんやろ。確かベスト4入りしたんやんな。川端西高校、っと・・・・・あった、あ、浅越さんベンチ入りすらしとらん。ざまあみろや。はっはっはっ。
えーと、バタ西のピッチャーは誰なんかな・・・・・背番号1番、左投げ右打ち。そのあとに意外な名前が書かれてあった。
よく知っている人だ。えっ、あの人!?・・・・「左腕エース」ってあの人やったんか・・・・・こりゃすごい、特ダネや、ってみんな知っとるかも知らんけど・・・・・・・とりあえず、明日報告やな、これは。





「バシッ!」
あれはミットの音?誰か投げているのか?
午後9時。走り込みをしていた南条はバタ西高校の近くの公園まで来ていた。
誰かが投げ込みをしているようだ。

「よーし、ええ球来とるで!やっぱり今回の大会もお前に投げさせなあかんな」
あれは・・・・・監督の声!?こんな時間にいったい何を・・・・急いで声のするほうに行った。

「谷嶋はどうなんですか?」
「あいつか、あいつは精神面ではええもんもっとるんやけどな・・・・・お前今日のバッティング練習みとったか?」
「いや、外走ってて・・・・・」
「いつでも走っとるな、お前は。まあワシが言うたことやし、それでこんだけの球が投げられるんやしな・・・・しかし谷嶋はなぁ・・・・・・」
監督相手に投げ込んでいるのは・・・・・・・・明日、新月とか刈田あたりに報告しよう。たぶん驚くぞ。



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こんな日に限って、南条も新月も見当たらない、どこに行ったんだ?
やっぱりロッカーに戻ろう・・・・・・あっ!いた!

「ジョー!新月!実は身近に左利きの人が・・・」
「刈田!ジョー!去年の新聞みとったらな、なんとエースは・・・・」
「二人とも聞いてくれ!昨日公園で監督相手に投げ込んでいた人が・・・・」

三人同時に叫んだ。何がなんだかわからない。

「今なんていった?」
「わからん、とりあえずジョーから言ってみ」
「それじゃ・・・・・昨日俺が走りこんでいたら・・・・」

そのとき浅越さんが入ってきた。
「おい、1年生3人何をしてるんだ。今日はレギュラー発表だぞ、もう忘れたのか?・・・・・早くグラウンドにこいよ。」

そうか。そういえばそうだった。だが、3人にとってはそれどころではなかった。

 

 

 

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