巨大な目標、高い目標

 

 

「おーい荒川!ちょっと座ってくれ」
「ああ。お前の球を受けるのは確か・・・3ヶ月ぶりぐらいか。」
木田さんが軽くキャッチボールをし始める。いつの間にか、バッテリーの周りには南条、刈田、新月だけでなく、他の一年生や2年生3年生も群がっていた。


「そろそろ肩もできてきたな。投げるぞ」
木田さんが・・・・振りかぶらない。ノーワインドアップだ。
足をやや高めに上げて、クロス気味に左腕を大きく使って投げ込んだ。

「スパンッ!」

なかなかきれいな球軌道だ。・・・・でもスピードでは谷嶋さんの方があるような気がする。


「128キロですか・・・・相変わらず信じられない数値ですね・・・・」
藤谷さんがいつものようにスピードを計っていた。
「信じられないって?」
「表示速度が遅すぎるんですよ。最初は壊れてるんじゃないかと何度も点検したものです。」

「・・・・そうですか?」
「そうなんですよ。・・・・そうだ」
いきなり藤谷さんが木田さんを止めてなにやらささやきに行った。
「・・・・そうかそうか。わかった。南条!ちょっとボックスに立ってみろ!」
木田さんの指がキャッチャーの左側を指した。どういうことだろう。
まあいいや。南条は言われるままに左バッターボックスに立った。

「よし。それじゃいくぞ」
またノーワインドアップから・・・・・・え?腕が出てこない・・・・・うわっ!来た!なにこれ!・・・・・球が内角をかすめてミットに吸い込まれていった。

「藤谷さん、今の何キロですか?」
「そうですね・・・・・127です。ね、信じられないでしょう?」
「は、はい。すごい・・・・・」

なんだろうこのノビは。外から見た球と全く違う、恐ろしい威力。
そしてあのフォーム。一見普通なのに・・・・・腕がほとんどみえない。
「それにあの人のピッチングはしり上がりですからね。試合が楽しみですよ、ほんとに。」
藤谷さんの言うとおりだ。早くあの人が実戦で投げる姿を見てみたい。

本当に甲子園にいけるかもしれない。大いなる希望が見えてきた。


___________________________________




「おーい!刈田と藤谷はどこや!」
監督がいらいらした様子で叫んだ。

「今日も休んでるみたいですけど。」
「全く・・・・・試合5日前や言うのにどこ行っとんねや、あいつらは」
「昨日も休んでましたからね・・・・・」
「ほんま二人ともベンチ入りなんやからしっかりして欲しいわ・・・・・」
監督とキャプテンは深いため息をついた。

「え?刈田なら今朝見ましたよ」
南条が意外そうに言った。
「何!?どんな様子やった?」
「いや、普通に元気そうでしたけど・・・・・」
「なんやあいつは!かえってきたらただじゃすまんで!」

あーあ、こりゃ大変だ・・・・・それにしても何やってんだろ、あいつは。


___________________________________


「おい、お前野球部だろ?」
「は、はい!」
試合前日、新月はいきなり大きな人から声をかけられた。・・・土方さんか・・・・嫌やなぁ・・・・できるだけ無難に対応せなあかんな・・・・・・

「スタメン発表があったんだって?お前はどうだった?」
「え、あ、一応ベンチ入りしました。」
「そうか。」
あれ?意外と普通に会話してる?

「・・・・・甲子園目指してるんだろ?」
「はい」
「全く無駄なことを。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・でも、目標があるっていいよな」
「え?」
最後の方は小さくてよく聞き取れなかった。

「うるせぇよ。チッ、何を気にしてるんだ俺・・・・・」
そういえばそやな。なんで土方さんがこんなに野球部のことについて聞いてくるんやろ。確かに不思議や。

そして、大きな人は少しうつむき気味に向こうへ歩いていった。

 

第一部 終わり

 

 

 

第一章メニューに戻る

小説メニューに戻る

ホームに戻る

 

 


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送