冴え渡るトッシー

 

「おい藤谷、相手の付属沢見、確か推薦の集まりや言うとったよな?」
「ええ、そうですけど」

「・・・つーことは、木田の球を見たことある奴はおらん、って事やな。」
「はい、たぶんそうでしょうね」
「じゃ、今日はパーフェクトやな。気が楽や」

角田監督はあっさり言ってのけた。パーフェクト?・・・・・まさか完全試合!?
いくら木田さんの球がすごいと言ってもさすがにそれは・・・・・・・


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「おいおい、またこれ球遅いピッチャー出てきたな」
「本当にエースか?中学生でもいそうだぜ、あの程度なら」
「6点ぐらい速攻でひっくり返したるって、な、弓射」

すっかり意気消沈していたエース弓射も、付属沢見ベンチの強気な発言を聞いて少し元気を取り戻した。だが、この余裕は10分後、無残に砕かれることになる。


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木田さんの投球練習が終わった。一回の表、南海大学付属沢見高校の攻撃。

「新月、確か知ってる選手が結構いるって言ってたよな。要注意のバッターとか知らないか?」
「そうやな・・・・・今入ろうとしてる1番のやつは知らんけど、ネクストに入ってる2番の小道。あれにはちょっと気をつけたほうがええかも知らんな。なかなかよう飛ばすで、あいつは。」
「よう飛ばす?2番なのに?」
「なんか知らんけど小道はずぅーっと2番やねん。そのくせホームラン狙いしてきよるんやな、これが。」
いわゆる近代的な2番打者、ってやつか。

「それと後は今日4番に入ってる田嶋ぐらいかな。あとはまあボチボチやな。」
なるほどなるほど。やっぱり情報があると心強い。


付属沢見の1番打者に対して木田さんが第一球を投げた。・・・・あっ!曲がった!しかもかなり鋭い。
「ストライーク!」
「初球から変化球か・・・・・びっくりした・・・・・」

見ているベンチもびっくりしたが、バッターの方はもっと驚いていた。
「木田の左腕から繰り出されるスライダー。強い足腰が支える鋭い回転。まともに決まればまず打たれへんやろな・・・・・」
監督が誰に言うでもなくつぶやいた。

2球目は外角ぎりぎりのコース。しかしボールと判定された。
3球目。高めのストレート。バックネットにファールボールが当たる。
4球目、カーブは明らかに外れてボール。
5球目。やや真ん中に来た。危ない!・・・しかしバットは球の下を空振りした。

三振。いいスタートだ。たぶん木田さん、乗ってくるだろう。


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ベンチに帰ってきたトップバッターに、付属沢見のメンバーは容赦しなかった。

「なんや今の三振は!ど真ん中やないか!」
「今は一発狙いよりとりあえず塁に出ることだろ!」
「・・・一発狙いしてたわけじゃねーよ・・・でも・・・なんか押されて・・・」
「押された?最後の球124キロだぞ、ボケてるんじゃないのか?」

「え!嘘だろ!・・・・普通に135のマシンより速かったぞ!」
「はぁ!?何言うとんねんこいつは?」
ベンチはかなり騒然としていた。

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次のバッターは新月が要注意と言っていた小道。左打ち。
確かに一年生にしては振りが鋭い。だが、背中から入ってくるスライダーに全くタイミングが合わない。
小道は木田さんに完全に翻弄された。結局低めに決まったストレートを打ち損じピッチャーゴロ。

今日はパーフェクト・・・・・あながち嘘とも言い切れない気がしてきた。


3番、ピッチャーの弓射が打席に入った。

1球目、高目へのストレートは外れてボール。
2球目、外角ぎりぎりに決まった。ストライク。木田さんコントロールもいいな・・・
3球目、ノーワインドアップから木田さんの左腕が鋭く振られる。・・・・・・・・・・しかし、ボールはなかなか来ない・・・・・・・・・ようにバッターには見える。チェンジアップか・・・・・空振り。緩急も使えるらしい・・・こりゃ本当に打てないぞ・・・・・・・

2−1と追い込まれてからの4球目。ここで信じられないことが起こった。
木田さんが投じた球は右バッターの内角へ入っていった。少し甘いか・・・・だが・・・

「クッ!」
「ブンッ!・・・
バシッ!」
「うぐぁっ!」

・・・・・なんと、ボールは振られたバットに当たらず弓射の体に当たった。
あまりの光景に一瞬グラウンドの空気が凍りついた。
なんてすごいスライダーなんだ・・・・・・・・・


「おい大丈夫か!」
付属沢見の選手がもだえ苦しむ弓射に駆け寄る。
「・・・うっ・・・みぞ・・おちに・・・・」

どうやら弓射はかなり球に突っ込んでしまったようだ。カウンターとなって大きなダメージを与えた。試合はしばらく中断・・・・・・・・・・・・しかし何とか立ち上がった。

そして、審判が気の毒そうに弓射の近くに行って、親指を一本立てた手を上げた。
「・・・・・・・・アウト。一応空振りだからな。三振だ。」
・・・・・立ち上がりはしたものの、まだ痛みの残っていた弓射ちは静かにベンチへと引き上げていった。



一回の裏3者凡退。ここまで完璧にバタ西ペース。このまま最後まで行って欲しい、い
や、行かないと。初戦突破に向けて、まだ試合は始まったばかりだ。

 

 

 

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