若手、躍動す

 

2回の表、バタ西高校の攻撃の前に、ベンチに衝撃が走った。

「よし、今日は木田の調子もええみたいやし・・・・・あれやるか」
「今年もやるんですか?・・・・・『若手育成』。」
キャプテン浅越さんは完全に事情を飲み込めているようだった。

「そや。その通り。・・・・・と言うわけで、今からスタメンとベンチをどんどん入れ替えていく!ほとんど総入替や。これはチャンスやぞ!でも肩の力は抜いていけよ」
「総入れ替え!?」
「えっ、今日の試合に例えば俺が出るってこともあるんですか!?」
刈田は動揺しながら聞いた。

「ああ、もちろんお前も出す予定や。まあ楽に行け、楽に」
楽にいけるわけないじゃないか・・・・・・
それにしても、高校野球って常に全力、が基本だよな。この監督・・・・・「プロのような采配」、か・・・・・
しかしこの采配を以前にも経験したらしい2,3年生は、かなり落ち着いてそれを受け入れようとしていた。よほど監督と、そして木田さんのピッチングに信頼があるのだろう。つくつくすごい、と言うよりは変わったチームだ。




早速この回のトップバッター、二番の浅越さんに代打が告げられた。
「ピンチヒッター、新月!行ってこい!」
「・・・えっ!?俺ですか!?・・・・まだ1年ですよ!?」
「1年やから何や、相手投手も1年生やないか!それとも他のやつに代わるか?」

「いえいえとんでもない!・・・・・・よっしゃ!行くで!」
新月は意気揚々と右バッターボックスに入った。



弓射の右腕から第一球が投げられる。緊張しているのだろうか、さすがの新月にもいつもの積極性が見られない。またもや甘いコースに入ったが見逃してしまった。
「新月!お前だけは絶対抑えたるからな!」

かつてのチームメイトの登場で、6点取られた上にふがいない空振り三振でダメージを受けていた弓射が精気を取り戻したようだ。
第2球目。新月は振っていった。ボールはストン、と落ちた。フォークだ。
ヤマが外れた。しかし新月は根性でバットに当てていく。


「コンッ」
だが快音は響かず、ボールは鈍くバウンドしながらショートの方へと・・・・・・・・いや、結構微妙なコースだぞ?抜けるか?・・・・・・ああ、抜けない抜けない。ショートが取った。そしてファーストに送球する・・・・・・・・
しかしその時点で、新月はもうほとんど一塁ベースに到達しかけていた。

「セーフ!」
送球が間に合わない。内野安打。・・・・・・こうして改めて見ると、新月ってやっぱり速いなぁ

「よっしゃ!弓射、残念やったな!」
「なんや!ボテボテやんけ!俺の勝ちや!」
ま、確かに実質新月の負けだよな・・・・・・




この打席を皮切りに、スタメンはどんどんベンチと交代して行ったが、それでもバタ西打線の勢いは衰えない。
続く3番の辺山さんに変わって2年生の伊藤さん。5球目のフォークを上手く流し打ってライト前ヒット。なんとこの間に新月は二盗、そして三盗を決めていた。特に、二盗のときはキャッチャーが投げることすらできなかった。そういうわけで新月は三塁かららくらくホームイン。7点目が入る。


ノーアウト1塁で谷嶋さんの打席。ここでなんと、代打に南条が告げられた。
「いきなり4番ですか?」
「4番?途中交代なんやからそんなもん関係あらへんがな。いけるやろ」

そしてこの打席、南条は期待通りセンター前へ持っていった。


ノーアウト1,2塁。チャンスの場面で芦原さんに代わって刈田が出される。
しかし刈田には全然自信がなかった。練習でも打てないのに・・・・・


案の定、簡単に2−1と追い込まれた。みんなは弓射の球、大したことないって言ってるけど、速いぞ、十分・・・・・・

「刈田!!ビビるな!ぶつかっていけ!」
木田さんが思いっきり叫んだ声に、思わず刈田はビクッとしてしまった。
そうか、ぶつかっていけ、か。そうだったな・・・・よし!!

4球目、刈田はフルスイングした。・・・・・当たった!・・・・・・だがボールは転々とセカンドの方へ転がっていく・・・・・・・・と思いきや、センターよりにいたセカンドが球に追いつかず、一,二塁間を抜けるライト前ヒットとなった・・・・・そしてこの間に二塁ランナーがホームへ帰る!クロスプレーとなったが・・・・・セーフ。

なんと、初打席でいきなり打点を挙げてしまった。刈田には信じられなかった。
俺でも、やればできるんだ。刈田の中に少し自信が芽生えた、ような気がした。

・・・・・
・・・・・
・・・・・

そんなこんなで、勢いづいたバタ西高校はこの回5点を加えた。
2回表終了時点で11−0。まさかこんなことになるとは・・・・・・・



木田さんの勢いも全く衰えない。むしろ乗っていった。
弓射に内角をえぐるスライダーが当たった、そしてもだえ苦しんでいた1回裏の光景を思い出して、付属沢見の各バッター、特に右バッターは引け腰でまともにスイングできていなかった。もちろん木田さんはあの時わざとあてたわけではないのだが、しかし結果的にあのデットボールはかなりの効果を発揮していた。


それを見抜いた藤谷さん(この人も途中出場)は、外角を中心に木田さんをリードし、付属沢見のバッターたちを手玉に取っていった。時々内角への鋭いスライダーを交えながら。・・・・意外といやらしいぞ、藤谷さん・・・・・


バックの野手たちも、スタメン陣にくれべれば安定感は劣るものの、懸命に守りぬいた。
特に刈田のグラブさばき、南条の強肩には光るものがあった。
ついでに刈田&新月の二遊間、「バタ西のファイアーウォール」の初陣にもなってはいたのだが、ちゃんと機能したかと聞かれると・・・うーん・・・・・・


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「ストライク!バラーアウッ!ゲームセット!」
最後の打者を高めのストレートで三振にきって取って、5回裏に第一回戦は終わった。

川端西高校 14−0 南海大学付属沢見高校。コールドゲーム。

特に圧巻だったのは木田さん。5回で17人に投げて無安打、無四球、10奪三振。
ランナーを出したのは新月による2失策(おいおい・・・)だけ。
監督のいうとおりになった。パーフェクト。

藤谷さんの言っていた言葉が今、南条の脳裏によみがえってきた。
「試合が楽しみですよ。ほんとに」
とても高校生とは思えないマウンドさばきで相手を討ち取る、まさに快投だった。


途中出場の1年生、2年生もそれぞれ持ち味を出したり出さなかったりではあったが、いい経験になっただろう。とにかく、終始バタ西のペース。圧勝だ。

こうして、バタ西は見事一回戦を突破した。



・・・・・
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・・・・・



試合が終わって球場を後にしようとしていたとき、新月は弓射に声をかけられた。

「・・・新月、ちょっと言いたいことがあるんやけど・・・ええか?」
その表情は真剣だった。

 

 


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