厄介なボール

「ストライッ！アウト！」
「えっ！？」

島田さんはこの大会初めての見逃し三振に呆然とした。
「ストライクだ。文句あるか？」
「いえ・・・・・」
審判に注意されて、少し深刻な顔でベンチに帰ってきた・・・・・


「最後の球・・・・ストライクか・・・・・うーん・・・・・」

「いや、ストライクですよ。確かに微妙な球ですけど・・・・・・」
頭を抱える島田さんに藤谷さんが言った。

「たぶんカット気味のボールですね。まああのコースの決められてはちょっと、ね・・・・・・」
積極性が売りの　（ちょっと無謀気味な気もするけど・・・）島田さんに見逃しをさせた、膝元に決まった天城の第３球目。今日は少し苦しみそうだ。


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・


１回の裏、バタ西打線は３人で打ち取られた。
大会始まって以来絶好調、のりに乗っていたこの打線に少し影が見え始めた・・・・・ような気もする。

「うーん・・・・・・やっぱりちょっとまずいかも知れんな・・・・」
ベンチに帰ってきた浅越さんがつぶやいた。　すかさず新月が返す。
「そうですか？浅越さんも辺山さんも三振ちゃいますし・・・・・というかまだ１回ですやん」

「それはそうだけどな、なんと言うか・・・・・手玉に取られた感じなんだよ」
それだけ言い残して、キャプテンは守備につくためグラウンドへ向かった。



２回の表。相手バッターは喜久。さっきの回はランナーがけん制死したから、この勝負は仕切りなおし。

木田さんが大きく使われた左腕から第一球目を繰り出した。
右バッターの懐にクロス気味に入る内角への球。低めのいいコースに決まった。

「ボール！」

えっ？ボール・・・・・微妙にそうなのかな。それにしても選球眼いいな・・・・
２球目、３球目、４球目、５球目・・・・・・・・結構粘るな。カウントは２−２になった。
６球目、インハイへのストレート。・・・手を出した、よっしゃ！

「ガキッ！」

案の定詰まった。よしよし・・・・・・・・・あれ？・・・・・意外に伸びてるぞ！？・・・・・・・・打球は左中間へ、予想を裏切る勢いで飛んでいった。・・・でもそこは島田さんの守備範囲。らくらくアウトになった。しかし・・・・・


「今の・・・・詰まってましたよね？完全に」
「そ・・・のはずなんやけどなぁ・・・・・当たり前やけど、去年よりまたパワーアップしとるな。こら厄介や・・・・・」
監督も納得いっていないようだった。

「去年よりまた？・・・・・・あの選手はどういう選手なんですか？」
「喜久は川端で１年からレギュラー張っとるんや。もう何度も対戦し取るけどな。・・・・・見るたびに筋力がついとる。当てられんようにせんとな・・・・」
まあ木田さんなら何とかしてくれるだろう。この大会今まで４本しかヒット打たれてないんだし・・・・・


後続の打者は難なく抑えた。２回表はノーヒット。
高校生の割には完投を意識してペース調整をする木田さんが、今までになくハイペースで調子を上げてきている。
やはり今日の試合にかける思いが強いのだろう。

ベスト４、過去の自分たちという壁を越えるために。そして栄光の場、甲子園に立つために。



２回の裏。この回は４番の谷嶋さんの打席から始まる。
早い回で点を取っていつもの勝ちパターンに持ち込みたいところだ。

天城がしなやかなサイドスローから第一球を投げた。

「シューーーーー・・・・カンッッ！」

鋭く振り抜かれた谷嶋さんのバットが低くはあったがやや甘いコースに来たスライダーを完璧に捕らえた！これはもしかして！・・・・・・・・・・いや、ちょっとファールゾーンに切れそうだ。入れ！入れ！・・・・・・ポールを巻いたか！？・・・・・・・・・いや、微妙かな・・・・・・

「ファール！」

３塁塁審が高らかに宣言した。あーーー、惜しい！
しかし初球からすごい当たりだったな。「三振前のバカ当たり」にならなきゃいいけど・・・・・・・・


気を取り直してピッチャー天城が第２球を

「すいません、タイムお願いします」
「・・・タイム！」

・・・・投げない投げない。キャッチャーがピッチャーに何事か相談しに言った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、長いな？・・・・・・・・・・・・まだかな・・・・・・


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「・・・おい天城、やっぱりあの球使ったほうがいいみたいだな。」
「もう使うの？まあいいけど・・・・・でもしんどいからなぁあれ・・・・・」

「負担がかかるのはわかってる。でも今年のバタ西は本当に強そうだぞ・・・・・陽陵より上かも知れん。」
「・・・そうだな。本気で行くとするか。」

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・・・・・やっと相談が終わった。いったい何を話していたんだろう。

「プレイ！」

今度こそ本当に気を取り直して天城が第２球を投げた。内角への球・・・さっきより甘い！打て！谷嶋さん！

「うわっ！」
「ゴッ！」

えっ？当たりそこね？
「絶好球だったのに・・・・・・」

「違う、絶好球なんかじゃない！・・・・・今のは・・・・・・・」
藤谷さんが敬語でないのを始めて聞いた。相当動揺しているようだ。なんで？

「たぶんシュートやな。・・・・・さて、これは困ったことになったで・・・・」
「そうですね・・・・・いつの間に覚えたんでしょうか・・・・・・やられた、こんなの聞いてないぞ・・・・・」


ベンチがかなりざわつき始めた。いや、でもなんでそんなに驚いてるんだろう・・・・・・・・

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