重圧

 

「浅越、今日はもうええ。下がっとけ。」
え?どういうことだ・・・・・まさか・・・交代!?
「はい、わかりました・・・・・・」

浅越さんは全く抵抗しなかった。いくらチャンスで打てなかったとはいえ・・・

「なんでそんなすぐに代えるんだろう・・・・」
「ん?なんや南条?何か異議でもあるんか?」
「え、いや、なんでもないです」
思っていたことをつい声に出してしまった・・・・・・

「まあ、あいつの場合ちょっといろいろとあるからな・・・・・・・これ以上出てもチームのためにも本人のためにもよくない。今日はもう休み。店じまいや。」
監督はメンバー交代を審判に告げに言った。



7回の表、なんと角田監督は代走に出ていた新月をショートに入れた。
こんな大事な試合で・・・いけるかな・・・・・
そして浅越さんのところにライトで背番号12の三年生、山手さんを入れた。

2番ライト山手さん。7番ショート新月。さて、相手の攻撃が始まる・・・・・




ああ、なんか修羅場が続くなぁ・・・・・さっきの走塁もあれやけど今度は守備やからなぁ・・・・・まあ何とかがんばるしかないか・・・・・
と、ここで木田さんがタイムを取って選手を集めた。
こういう形での集合はこの大会初めて。何を話すんだろう?

「みんなにどうしても言いたいことがある・・・さっきはすまんな。せっかく作ってくれたチャンスを潰して・・・・」
「気にするなよ。第一ここまでお前のおかげがものすごく大きいからな。おれたちが文句を言えることでもないさ。」
谷嶋さんがすかさずフォローした。

「・・・そうか。でも、1点を取り逃してしまったのは確かだ。だからもうこの回からは、絶対に1点も取らせない。
俺の高校野球は今年で最後だ。絶対に甲子園に行きたい。なんか上手く言えないないけど・・・お前らも協力してくれるよな?」

「いまさら言わなくてもわかってるって!なあ?」
「そうですよ、俺たち死ぬ気で守りますから」
「・・・よし。いつものやるか!」

そしてナインはは腕を出した。9つのチタンバンドが円形に並ぶ。
「「「「「「「「「レッツゴー!!バタ西!!!」」」」」」」」」

うーん、最初はなんや、と思ってたけど、慣れてくればええもんやなぁ・・・・・
新月は思わず感動してしまった。



「プレイッ!」

気合を入れなおし、試合再開。木田さんが腕を大きく使って第一球を投げ込む。

「ビシューーーッ・・・・・・ドンッ!」
「!!」
「ストライック!」

あれ?なんか心なしかいつもより早いような・・・・・スピードガンは?
「138キロ・・・・・いまのところ今大会最速ですね」
「さあ、ここからが本番や。バタ西高校と、木田の投手人生のな」
投手人生?どういうことだろう・・・・・・


その意味はよくわからなかったが、木田さんのピッチングは確実に変化した。
フォームが今まで以上に躍動し、球速も数回140キロを超えた。
スパートをかけた木田さんに川端高校打線は当てることすらままならない。7回の表。三者凡退。




一方、先ほど三塁まで進まれたからか、それとも木田さんもピッチングを見てか、川端の天城もペースを上げてきた。7回の裏、川端西高校は3番からの、クリーンアップが丸ごと当たる好打順だったがこれも三者凡退に斬ってとられた。




「・・・・・本当にすごいな。どっちも、本当に・・・・・・俺は、このチームに必要なのかな?」
ベンチで沈み込んでいた浅越さんが久しぶりに口を開いた。

「・・・浅越さん、なんか・・・変ですよ?そこまでヘコまなくても・・・」
「そうだな・・・・・せっかくみんながんばってるに水を差してるよな・・・」
「そうじゃなくて・・・・なんでそんなに落ち込んでるんですか?・・・・・よかったら話してくれませんか?」
「・・・・・・俺は昔からプレッシャーに弱くてな・・・・・」
浅越さんが静かに語りだした。



「もともと勝負弱いところはあった。それでも何とかやってきたんだけどな。
それが決定的に現れたのが去年の・・・・・・準決勝、今日と同じ、対川端高校戦だ。

・・・・なんでもない、それでも重要な場面だったよ。一回の表にランナーをバントで送る、ただそれだけのことが俺にはできなかった。その後はもうボロボロだ・・・・2回まわってきたチャンスを2回とも潰して・・・・そう、さっきみたいにな・・・・・
・・・・・去年負けたのは俺のせいだ。みんなは違うと言ってくれるけどまぎれもなく・・・・今年ももし負けたらまた・・・・・・」


そのとき、急に誰かの腕が浅越さんのユニフォームををつかんだ。監督だ!
「おい!!これ以上そんなぐちゃぐちゃ言うんやったらもういらん!もう出てけ!!」
「か、監督・・・そこまで言わなくても・・・」

「黙っとけ!・・・ほんま一人で全部背負い込んだみたいな言い方しよって!お前は素人やろ!いっつもいつも打てるわけあらへんわ!

確かに失敗したら反省せなあかん。そしてそれを活かして練習せなあかん。でもお前はそれをやって来たやろ!この1年間人一倍努力したやろ!それやったら堂々と胸張っていかんかい!!
なんや!たまたま一回ミスったぐらいでそんな・・・・・もうとにかくそんなやつはいらん言うとんねやっ!!」

最後の方は言ってる本人もよくわからなくなってきたらしい。それぐらいすごい勢いで角田監督は言い切った。息が荒くなっている。



しばしの沈黙のあと監督は言った。
「・・・・・ちょっと熱くなりすぎた。すまん。・・・でもな、お前が暗くなっとったら周りも暗くなるんや。そんな状態じゃ、このチームはとても9回までもたん・・・・・お前はキャプテン、このチームの中心やからな」

「・・・監督」

「・・・・・もう今日は試合に出せんけど、グランドのあいつらのために精一杯声出したってくれ。・・・頼むわ。お前の力が必要や。」
監督の声が少し震えていた。



浅越さんは立ち直った。
「・・・よっしゃ!いくぞ!延長まで持ち込ますな!9回までで決めるぞ!!」
「「「・・・おぅ!!」」」
「そのためにもまずは点をやるな!・・・特に新月、俺が教えたとおりに、基本どおり冷静にやれ、お前が守備の要だぞ!いいな!」
「はい!!」


よっしゃ、キャプテン復活!試合もそろそろ大詰めだ。

 

 

 

 

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