過去を越す

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「すまん、ついに打たれてしまった・・・・・ここまで順調に、順調すぎるぐらいに来れて・・・・・それでちょっと油断してたんだろうな・・・・・・」
川端高校のエース、天城がうなだれながら謝った。

「おいおい、お前が謝ることないだろ」
「そうだ。8回二安打一失点、もっと胸張れよ、な」

「・・・・・それにまだ試合は終わってない。・・・ちょっとした秘策もある」
3番ショートの土岐が意外な言葉を放った。

「え?秘策?」
「・・・と言っても成功するかどうかはわからない。完全に賭けだ」
「賭け、か・・・・・・・でもこのまま終わるよりは・・・・・・・・どんな作戦なんだ?」

「さっき代打が出て今サードに入ったやつ、一年生らしい。普通は相当緊張するだろう。緊張してなくても「慣れ」がないはずだ。そこを狙って奇襲をかける。・・・・・・しかしあの選手、さっきヒット打ってたしな・・・」
「・・・・・具体的にはどうするんだ?」
そして、最後の打ち合わせが始まった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


谷嶋さんが投球練習をしている姿を、サードに入った南条は見つめていた。
球は十分走っている。確かにそこら辺の選手にはあの球は打てないだろう。
しかし、川端高校には「そこら辺」ではくくれない選手が数人いる。
あと一回、あと一回おさえてください。頼みます。



「プレイ!」

ついに最終回、9回の表が始まった。打順は2番から。
谷嶋さんがオーバースローから第一球を投げる。

「シューーーーーーー・・・パンッ」
「ストライッ!」

まずは低目へのストレート。今日も制球は安定しているようだ。
そして第2球目、さあ次はどんな球を・・・・・

とここで、バッターがバントの構えを取った!

「サードッ!!」
「・・・え?」

あっ、しまった、バッターの方よく見てなかった!南条は急いでダッシュした。
「コンッ」
三塁線にバント。そこまで上手くは無い。だがサードのスタートが遅すぎた。
やばい!早く送らないと!!・・・・・・・・・・このあせりがさらに悪影響を及ぼした。

南条はボールをお手玉してしまった・・・・・・ランナーはセーフ・・・・


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「おお!読みどおりだな、土岐!」
ネクストサークルに入っていた土岐に、チームメイトが叫んだ。

「動きを見る限り基本はそれなりにできてると思う。だが・・・・この場面だからな・・・・・・・・・俺でも嫌だよ。・・・・・・・・・・・さ、行って来るとするか」
土岐はつぶやいて、打席に向かった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


え?左打席に入った?・・・・・あの選手、両打ちだったのか・・・・・
今日の川端高校でただ一人、きれいな当たりを放った選手。両打ちとなるとさらに厄介だ・・・・・

谷嶋さんが第一球を放つ・・・・・と、ここで土岐はまたもやバントの構え!
南条は急いで前に出た。・・・・・・・・が、ここで土岐はバットを引いた。

「ボール!」

危ない危ない。左バッターで俊足。まともに取ってもアウトにできないかも。

・・・
・・・
・・・

バントの構えをしては引く。そうしているうちにカウントは2−3、フルカウントになった。
ノーアウトで、1点差。歩かせることも難しい。

ピッチャーが第7球目を投げる・・・・土岐は打ちに出た。しなやかな流し打ち。だがやや勢い不足、サードの守備範囲か・・・・・が、ここでも南条の反応が遅れた。・・・・・・・・ボールはサードの横を抜けていった。しまった・・・・・

「南条!!前を意識しすぎだ!!もっと全体を見ろ!!」
ベンチの、木田さんだろうか、怒声が飛ぶ。しかしそういわれても、さっきのバントヒットの残像が頭から離れない・・・・・


土岐の「秘策」がはまり始めた。これはやばい。
そしてバッターは4番の喜久。まだノーヒットだがあのパワーは怖い。


・・・
・・・
・・・


1−2からの4球目、カーブが甘く入った。まずい!
喜久のバットが鋭く球を捕らえた。打球がショートの頭を越・・・・・・さない!

新月が驚異的な跳躍を見せ、ボールをグラブに収めた。
とった後倒れこんでしまいランナーにまで気を回すことはできなかったが・・・・・

「アウト!」
「何!?今のが・・・・・!?」

これが新月の持ち味。瞬発力を活かした、粗くてもアクロバティックな守備。


しかしピンチはまだ続く。1アウト1,2塁。一打で同点、長打で逆転の可能性もある。

ここで谷嶋さんが選手を集めた。

「いいか、みんなわかっていると思うけど、もう一回気合を入れなおすぞ!
・・・・・最初は俺たち3年だけ出始めたこのチーム。それがここまで来れただけでも奇跡だ。・・・でも俺はここで満足しない。みんなもそうだよな」
「そりゃそうだ!ここまできたら甲子園しかないだろ!」
「ベンチにいる木田も、浅越も同じ気持ちのはずだ。ここで負けるわけには行かない。・・・・絶対に抑え切る。いいな!」
「「「「おう!」」」」


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・


試合終了。
谷嶋さんは気迫のピッチングで5番を三振、6番をサードゴロにしとめた。
特にサードゴロは微妙な当たりだったが、南条の強肩がうなりランナーを見事に刺した。集中的に狙われた南条も、これで少し自信を取り戻しただろう。

川端高校 0−1 川端西高校 

まさに「手に汗握る戦い」、だった。
ついに、決勝進出。

去年の川端西高校、かつての自分たちを、超えた。


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

敗れた川端高校のベンチ。しかし選手の表情はあまり沈んでいなかった。

「みんな、そう落ち込むな・・・・・と普通は言うけど、そこまで落ち込んでないたいだな。そうだ、それでいいんだ、それで。お前らはよくやった。」
「甲子園にいけないのは残念だけど・・・去年も勝ったしそう簡単には勝たせてくれないよな」
「しかし木田ってピッチャー、去年はそれほどにも思わなかったけどな・・・・・急成長か・・・・・」

「そうだな。でも土岐なんかは完全に捕らえてたし、喜久もいい当たりだった。」
「天城もすごかったしな。・・・最後にいい試合ができてよかったよ」
それぞれの顔は、充実感に満ち溢れていた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・


地方大会とは言え、準決勝ともなると報道陣の数が違う。
特に今大会わずか4被安打の木田さんを多くの記者が囲んでいた。

「しかしすごいピッチングですね。何か意識して練習したこととかは?」
「とにかく走りこむことですね。それだけはすごく心がけてます」

ここで、一人のフランクな記者が気さくに質問した。
「いやぁ木田君、今日は本当に中学時代を彷彿とさせる快投だったね!」
「・・・すいません、その話題についてはあまり・・・・・・・」


木田さんの一言に、場の空気が一瞬止まった。


・・・
・・・
・・・


天城が記者たちに囲まれて始めていた。あの人も高校生離れしてたもんな・・・・

その代わりにインタビューから解放された浅越さんが戻ってきた。
満面の笑みをたたえて。どうやらその喜びは勝利によるものだけでは無いらしい。

「・・・よしよし、ついについに俺たちもあの番組に出れるんだな、うれしいなぁ!」
浅越さんが意味深なことを言った。
「あの番組?」
「ん?まあこれは明日のお楽しみだ。ふっふっふっふっふ・・・・・」


なんだろ?まあいいや。明日1日ゆっくり休んで、いよいよあさっては決勝。

甲子園まで、本当にあと一歩だ。

 

 

 

 

第二章メニューに戻る

小説メニューに戻る

ホームに戻る

 

 


SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送