お化けフォーク、黄金の指

 

_____________7月29日 昼 決勝戦____________

俺たち川端西高校がつくと同時に、今日の対戦相手、陽陵学園高校のメンバーも球場についていた。
さすが王者の風格と言うかなんと言うか、雑談をしながら余裕の態度で歩いていた。

「あれが陽陵学園かー。強いんだろうな・・・・・なんたって去年の夏、今年のセンバツと甲子園に二回も出場してるからな、連続で・・・・・・だよな?刈田」
いまいち自分の野球知識に自信のもてない南条は刈田に確認を取った。

「そうそう、ジョーも進歩したな・・・・・・・・・・・ってそれぐらいは知ってて当たり前だよ・・・・・・・ん?あれは・・・・・・・あっ!!」
「うん?どうしたんだ?」
「あの背番号1の人、前に見たことある・・・・どこでだったっけ・・・・・・」
「陽陵学園背番号1番、「お化けフォーク」庄原ですね。」


こういう知識系の会話につき物の藤谷さんが、やっぱり現れた。
「身長は170センチちょっとと普通ですが、それに見合わない長い指から放たれるフォークは・・・・・」

「長い指・・・・・あっ!思い出した!ジュースこぼした人だ!」
「ジュース???」
南条には何がなんだかさっぱりわからない。


「この前球場で予選を見てたらあの人がジュースをこぼしてきて・・・・・それであの人の指がやたらと長かったのが記憶に残ってるんだ。」
「そうなんです。あの指から放たれるフォークは・・・・・とにかくすごい変化をするんです.言葉では言い表せません。」
「『気持ち悪いけど意外と役に立つ』ってそういうことだったのか・・・・・」

やっぱりなんだかわからない。でも強力な相手だ、ということには間違いなさそうだ。


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先攻は川端西高校。オーダーはいつもと一緒。もちろん先発は木田さんだ。

「さあ、ついに庄原が目の前で投げるぞ・・・・・」
角屋さんがベンチから身を乗り出して、ピッチャーをじっくり見ようとしていた。
「角屋さん、あの人のフォークってすごい変化をするんですよね。プロ野球選手でたとえればどんな感じなんですか?」
情報音痴の南条はプロ野球のこともあまり知らなかったが、とりあえず参考になるだろうと思ってそう聞いてみた。

「プロ野球ねぇ・・・・・例えられないな。うん。プロでもあの独特な変化をする人はいないだろな。俺は去年、まだ1年生の時にだな、運良くバックネットに座れて、そっから見たんだが・・・・・・度肝を抜かれたよ。あれは格が違う。」

そんなにすごいのか・・・・・しかし庄原は、投球練習ではストレートだけを投げている。さあどんな球なんだろう・・・・・


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「プレーボール!!」

「島田!!一発狙っていけ!!!今は三振してもいいぞ!!」

「基本に忠実な野球」がモットーのキャプテンも、こと島田さんに限っては完全にあきらめているようだ。まああの人の持ち味を生かすためにはそのほうがいいんだけど・・・・・

「ビシュッ!」

庄原の右腕から第一球が放たれた。

「ブンッ!!」
「ストライッ!!」

初球から内角高め。結構思いきったコースに来た。
なかなか切れのいいボールに島田さんは空振りしてしまった。でもそんなに速くは無いな・・・・・
「124キロ・・・・・・まあそんなもんでしょうね。」
この声の主は・・・・・もちろんあの人しかいない。


庄原がワインドアップモーションから第二球目を・・・投げた。

「スーーーーーッ・・・・・・・・フッ」
「ブンッ!」

・・・・・・・!!!・・・・・なんだ!?今の変化は!!?

「今、すごく落ちた・・・・・と言うより逃げてませんでしたか?」
「確かに外に逃げたな。だがあんなもんじゃない。まだまだどこに曲がるかわからんぞ・・・・・」

木田さんが警戒をこめてこう言った。
どこに曲がるかわからない?・・・・・フォークなのに?


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木田さんの言うとおり、お化けフォークはいろいろな変化を見せた。
フォーク2球目は低めに決まったがあまり落ちず。
そして3球目・・・・・今度は島田さんの方に食い込んで来た。そして島田さんは三振にきって取られた。

「すごい・・・・・と言うより見たこと無い・・・・なんなんですか?あれ?」
「ナックルの一種、と言ってもええやろな。あいつの指はな、異常に長い上に柔らかい。それでボールにどれだけ負荷を与えるか調整できるんかな・・・・・スッとまっすぐ落ちたり、フッとゆれながら落ちたり・・・・・・とにかく難儀なピッチャーやで、あれは・・・・・・」

監督は渋い顔をしながらそう説明した。


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お化けフォークの切れ味は想像をはるかに超えていた。
庄原は1番から始まるバタ西打線から三者連続三振を取ってしまった。

とにかくどう曲がるかわからない。
前回転も手伝って鋭くストーンと落ちるかと思えば、80キロ台のどろーんとしたボールがくる。
変幻自在、と言う言葉は彼のためにあるのでは無いか、と思えるほどだ。その上コントロールもなかなかいい。


「去年同様、回を追うごとに球速も上がってくるやろな・・・・・」
「そうですね。今年も、いや、今年はさらにすごいピッチャーになってますね・・・・どう攻略したものか・・・・・・・・さっ、俺も庄原に負けんよう、がんばってきます。」

木田さんは監督にそう言い残し、マウンドへ向かっていった。


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投球練習を終えた木田さんに、浅越さんが駆け寄った。

「どうだ木田、いけそうか?」
「俺の調子は問題ない。ただ相手打線はよく鍛えられてるからなぁ・・・・・特に4番の開成、あいつはパワーだけじゃなくて確実性も抜群だからな・・・・・」
「そうだな。いままでの中でも最強の敵だろう。でもお前なら絶対に抑えられるさ。俺は信じてる。・・・・・・・・よし、今日も集めるか!」

いつものように、浅越さんはナインをマウンドに集めた。

「今日勝てば甲子園だ。相手は強い。確かに強い。でも今年の俺たちはそれ以上に強い!俺が保証する!さ、いつもの行くぞ!」

「「「「「「「「「Lets'GO バタ西!!!オウッ!」」」」」」」」」


チタンバンドを腕にした球児たちはグラウンドへ散っていった。


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木田さんはいつに無く慎重だった。
スライダー、カーブ、そしてチェンジアップを中心に変化球を低めに集めて打ち取っていった。
1回の裏、陽陵学園高校は三者凡退。臨機応変にこういう投球ができる木田さんはやっぱりすごい。
おそらく「新島の江夏」よりもすごいはずだ。


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庄原のフォークが冴える。2回の表も三者凡退。木田さんの言ったとおり、庄原の球速は1回よりも上がってきた。この大会、打率3割5分を誇る谷嶋さんでも全く手が出ない。これはまずいぞ・・・・・・・



そして3回の表、陽陵学園の攻撃は4番から。

「さあ次は、いよいよ開成の打席ですね。高校通産41本、この大会ですでに5本を放っているスラッガー・・・・・・」
藤谷さんがいつものようにつぶやいていた。どれどれ、背番号3は・・・・・

「・・・・・なんか、太ってますねー・・・・・・・」
「そうですね。あの体格だから足は遅いです。しかしそんなことデメリットを一瞬で吹き飛ばしてしまうぐらい、あの選手の力と技術はすごいですよ。」
うーん、でもあの体は・・・・・・・・身長も180は超えてそうやし、おそらく100キロ近くあるんちゃうかな・・・・・まあ確かに、当たったらものすごい恐そうやけど。


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カウント1−2。開成は低めの球になかなか手を出さない。
そして木田さんが開成に第4球目を投げた。外角へのチェンジアップ・・・・・手を出した!

「・・・・・ブォンッ!!!」

ややタイミングが遅いか。いくらチェンジアップ打ちと言っても待ちすぎ・・・・・ん?あれ?・・・・・・・あっ、これはやばいかも!

打球はライトのファール線上を伸びていく。かなりきわどい。頼む、入らんといてくれ!・・・・・・・・・巻いたか!?

「ファール!」

・・・はぁ、よかった・・・・・・
「それにしても、すごい外角打ちですね・・・・・・」
「広角打法、ってやつですか・・・・・・あの打者、去年以上に巧くなってますよ・・・・・・・」

陽陵学園は確実にスキルアップしている。これはすごい壁になりそうだ・・・・・


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すごい打球はあったものの、結局木田さんは開成を高めのストレートで三振に討ち取った。

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「開成、お前はあのピッチャーどう思う?」
「スキが無くて良いピッチャーだ。球の出所も見えにくいし変化球も切れる・・・・・・・・俺でもてこずりそうだな、あれは。」

「あれがあの超速球ピッチャーだったとは思えませんね・・・・・・・」
「確かに昔は相当粗っぽいピッチングをしてたもんな・・・・・・・・・それでも中学生にゃ打てなかったけど。・・・・・・・・・なんでも昔、一回肩を壊したらしいな。」
「それで最近大々的に聞かなかったのか。でも去年よりは速くなってるぞ。」

「まあ今は回復段階、てとこなんだろうな。将来が恐ろしいよ・・・・・」


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後続の二人もアウト。2回の裏、0−0。両者一歩も譲らない。


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それからしばらく、緊迫した投げ合いが続いた。
庄原のお化けフォークとコーナーの制球が冴え渡る。
木田さんは丁寧なピッチングを崩さない。


4回の裏、木田さんは1アウトを取った後に2番打者にセンター前ヒットを打たれ、ついに三者凡退は崩れた。さすが優勝校。打者の層が厚い。
そして3番打者がなんと送りバントをし、4番の開成に回してきた。
中軸がバントって・・・・・よほど開成に信頼があるらしい。2アウト2塁。



「カンッ!」
「んっ!!!」

1−1からの3球目、開成が内角低めに来たスライダーを巧みにレフト前にはじき返した。あいにくランナーは得点圏。これはやばいか!
・・・・・・しかし打球は浅く、2塁ランナーはホームに帰って来れない。レフトからの返球をショートの浅越さんが受ける。ふぅ、良かった・・・・・・・・


・・・・・・とここで、浅越さんがファーストへ素早く送球した!

「あっ!!!」
「アウトッ!」

少し飛び出していた開成を刺してしまった。なんて判断力だ・・・・・・・・・

開成は「しまった!」と言う表情を満面にたたえて、ベンチに帰っていった。


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そして試合は再びこう着状態に。
庄原のお化けフォークは相変わらずバタ西打線を寄せ付けない。5回までノーヒットに終わってしまった。

「133キロ・・・・・こりゃまだまだ上がりそうですね・・・・・」
藤谷さんはスピードガンの数字を見てため息をついた。


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木田さんも調子を上げてくる。
丁寧な低め攻勢の中に、大胆な内角攻めも組み込んできた。スライダーが切れる。
5回の裏、陽陵学園はこの回2三振を喫し、三者凡退に終わった。


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6回の表、バタ西に好機がやってきた。
7番の須藤さんが庄原のフォークを柔軟に捕らえた!三遊間を抜くヒット。お、このパターンはもしかして!


案の定荒川さんは送りバント。相手バッテリーはボール球で揺さぶってきたが、そんなものはこの人には効かない。きっちりと勢いを殺して今日も決めた。

1アウト2塁。ということは・・・・・・

「次のバッターは木田か。せっかくチャンスがきたんや・・・・・・・・・これを逃すと・・・・・・・・・いやでも今日の木田は変えられんな・・・・・・しかしこれ以降チャンスを作れる機会はそうそう・・・・・・」

そのとき木田さんが監督の目を見てこういった。

「監督。代えてください。お願いします。なんとしても1点取らないと。」
「わしもそれはわかってる・・・・・・でも点を取られるわけにも・・・・・」
「陽陵をおさえるのは谷嶋にもできます。でもこの場面で1点取るのは俺以外のバッターでないと無理です。お願いします、監督!」

「・・・・・そやな。お前の言う通りや。よし!千林、行け!」
木田さんへのピンチヒッターに、3年生の背番号13番、千林さんが指名された。さすがにこの場面で南条は使わないか・・・・・・・・

「頼むから打ってくれよ・・・・・・」
浅越さんが必死に祈っていた。


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「今日初めてのピンチだな。いや〜、緊張するなー。」

「ウソ言うな、庄原。緊張感のかけらも感じられないぞ・・・・・・まあそのクソ度胸がお前の持ち味なんだけどな。」
「お、クソ度胸とは言ってくれるじゃねーか。まあいい、ピンチヒッターかなんだか知らんが抑えるよ、俺は。・・・・・・・この指に誓って・・・・・・・・・」
「黄金の指、か。全くお前はたいしたやつだよ」


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願いは通じなかった。
当てることはできたが、ショートゴロになってしまいランナー進塁できず。
気迫で望んだ次のバッター島田さんも、その気迫があだとなってしまい、ゆるい、どろーんとしたお化けフォークに翻弄された。三振。

結局川端西高校はチャンスを生かせず、6回の表も無得点に抑えた。


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木田さんよりは劣るとはいえ、谷嶋さんも十分にいいピッチャーだ。
コンスタントに放たれる130キロ後半の直球に、「こんな良い控えピッチャーがいたとは!」と陽陵ベンチも驚いているようだった。


6回裏を終わって0−0。準決勝に続きピリピリした試合が続く。


でもここを勝てばいよいよ栄光のあの場に立てる。絶対に、絶対に負けるわけには行かない・・・!!

 

 

 

 

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