次の時代へ!

 

____________8月1週 川端西高校グラウンド____________


あれからもう4日か・・・・・浅越さん、大丈夫かな・・・・・

本来なら決勝戦の翌日に引退式をやる予定だったのだが、浅越さんが合流してから、ということで式は延滞されている。そういうわけで、まだ3年生たちはグラウンドへ来ていて、練習しがてら浅越さんを待っている。


ただの足のケガなのに4日も?という疑問もあるかもしれない。
・・・・・・これだけ時間がかかっているのは角田監督のせいだ。あの監督、意外とすごい心配性なんだな・・・・・・試合後すぐ、なんと浅越さんを入院させてしまった。
慎重派というかやりすぎというかなんと言うか・・・・・



「なあジョー、次のキャプテン誰だと思う?」
刈田が聞いてきた。でも、どうせ良い答えは期待して無いんだろうな。
「そうだな・・・・・藤谷さんとか?」

「藤谷さんかぁ・・・・・確かに後輩にも丁寧だけど・・・・・リーダーとなるとちょっとなぁ・・・・・・・」
「そうか?野球の知識も豊富だし、いいと思うけど。」
「でもあの人、いったん自分の仕事、情報収集にのめりこみ始めると周りが見えないというか・・・・・・フリーで活躍させた方が良いんじゃないかな・・・・・」


「さすが刈田君、よくわかってますね」
「あ!藤谷さん!」
いつの間に後ろに・・・・・この人も気配を消すのが本当にうまい。

「すみません、勝手にこんなことばっかり言って・・・・」
「いえいえ、本当にその通りですから。それに、キャプテンじゃスパイ活動もできませんしね」
「はぁ・・・」
スパイ、って自分で言ってるよ・・・・・・・これじゃ偵察を角田監督に完全に認めてもらうのはまだ先の話だな。

「まあ、やっぱり角屋君あたりが妥当じゃないでしょうか。実力から言っても人柄から言っても」
「藤谷さんもそう思います?ですよね!」


盛り上がっている二人の間に入ろうと、南条はちょっと提案してみた。
「島田さんなんかどうですか?ムードメーカーだし」

「「それは ない
      ありません ね」」

あーあ、二人同時に否定されたよ・・・・・・




などと話していると、グラウンドの外に人影が現れた。

「おお!浅越!!」
「あ!キャプテン!」
「おいおい、もうキャプテンじゃ・・・・・ってそうか。まだ引退式も引継ぎ式もやってなかったんだな。ごめんごめん。」

浅越さんは右足にギブスをし、松葉杖で歩いていた。


「ケガはどうなんだ?これから野球できるのか?」
「そこまでひどかないよ。はく離骨折、だそうだ。」
「やっぱり普通の捻挫じゃなかったか・・・・・腫れ方が尋常じゃなかったもんな。・・・でもそれなら、1ヶ月もあれば直るよな?」
「ああ、というわけでみんな、心配するな」


「はく離骨折」とは骨がはがれるようにして損傷するケガだ。
ねんざのようなくじき方で、ひどくひねってしまうとなってしまうことがある。



全員が集合して、その前に浅越さんが立った
「さて、だいぶ遅れたけどまずは、引継ぎ式からやるか!!」
・・・誰になるんだろう?キャプテン


「もうすでに決めてある。まあ入院生活が3日間もあれば決まらないほうがおかしいけどな。・・・・・・次のキャプテンは、角屋!」
「はい!!」
角屋さんが気合を入れて返事した。予想通りだ。

「副キャプテンは島田。・・・・・・お前にはリーダー的な役割は
全く期待していないが、どんどんチームを盛り上げていってくれ。」
「な、なんですかそれは・・・・まあはい、そういうことなら任せてください!」

あながち俺の言うことも間違いではなかったな。南条は少しほくそえんだ。


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・


引継ぎ式が終わり、引退式があった。各選手それぞれ最後に一言ずつを残した。
今後の進路は、谷嶋さんがオファーがあって社会人野球へ。辺山さんは就職。
浅越さんを含めそれ以外の人は普通に受験して大学へ。皆、野球は今後も続けたい、といった。


「いやちょっと待て。そういえば、なんか足りないような・・・・・」
「そうだな、誰か・・・・・・ってあっ!!!」

足りない人に気づいて、その名前を呼ぼうとしたとき、ちょうどその人は現れた。



「あ!もう始まってるのか!いやー、すまんすまん。お、浅越、意外と元気そうじゃないか!」
「木田・・・・・もうほとんど式は終わったぞ。次のキャプテンは角屋だ。・・・・・ほら、お前もなんか一言残せ。」


「そうだな・・・・・・・・よし!

川端西高校野球部の諸君!
お前らがこれから野球をやっていく上で、辛くなったりしんどくなったりで、もうやめたい、と思うときが来るかもしれない。
でも、たとえどれだけ苦しくても、絶対に野球をやめないで欲しい。
野球は本来楽しいものなんだ。楽しくないなら、何かその原因があるはずだ。だったら原因にガンガンぶつかって吹き飛ばしていけばいい。そうすればお前らの前に、また楽しい野球が戻ってくるはずだ。
いや、絶対に戻ってくる!それを忘れるな!以上!  」

「「「はい!!!」」」

全員がいっせいに立ち上がった。・・・・・・いいスピーチだ。


「・・・ちなみに、ちょっと角田監督の言葉からパクリました。すいません。じゃあみんな!達者でやれよ!」


「・・・あ、そういえば、木田さんは今後どうされるんですか?」
「あれだけ活躍したんだからプロとか?」

「プロか・・・・・・一応誘いが無いでもなかったんだけどな。」
「えっ!!?」
「でも断ったよ。・・・・・俺はまだ、肩が完全には治ってない。こんな状態ではちょっと人生を賭けるのが恐くてな。」

中学最後の試合で痛めた肩、完治はしてなかったのか・・・・・・・・


「・・・・・って、完治してないのにあんな球投げてたんですか!!?」
「まあ、そうだな。・・・・・・とにかく俺は、大学で野球をやる。推薦も来てるしな。俺の肩が治ったら・・・・・そのときはお前ら嫌でも「木田寿和」の名前を聞くことになるだろう。・・・・・楽しみに待っとけよ。ははは。」

木田さんはやや冗談めいて言ったが、本当に楽しみだ。「大学NO,1左腕 木田寿和」なんて記事がスポーツ雑誌に載ったりして・・・・・・



「あ、そうだ。寄せ書き、最後は誰に回った?たぶん1年生だよな?」
新キャプテン角屋さんが1年生に聞いた。
「あ、俺です。俺が持ってます」
刈田が手を挙げた。

「確かかばんの中に・・・・・・・」
「これか?」
島田さんがベンチにおいてあったかばんを取って刈田に渡した。
「すいません。さてこの中に・・・・・・・・・この中に・・・・・・・・・あれ?・・・・・・・・・・・
ない!!!?」
「「えーっ!!?」」

おいおい、ここまで来てそれはないだろ・・・・・・・


「たぶん家に忘れました・・・・・・・本当にすいません・・・・・」

「おーい、どうするんだよー」
「せっかく書いたのに・・・・・・」
1,2年生からは当然ブーイングの嵐だ。

「・・・・・家に確かにあるんだな?」
「え、はい。今日の朝、机の上でちゃんと見ました」
そんな刈田に、木田さんは心底あきれた顔をした。

「・・・・そこまでして忘れたのか・・・・・しょうがないやつだな・・・・・・まあいいや、みんな、刈田の家まで走ろうぜ!!」
「えっ?」
「走ってとりに行こうぜ、ってことよ!最後の全体練習だ!・・・それに確か、あの近くにはファミレスがあっただろ?今日はそこで打ち上げだ!!」


「おお、いいねー!!」
「ナイスアイデア!!」
「寄せ書きはそこで見ればいいか、そうだな!!行こうか!!」


「よし、決まりだな!掛け声は・・・・・浅越、キャプテン最後の仕事だ!」


「任せろ、よーし・・・・・・
Let's GO!!バタ西!!!!」
「「「おぅ!!!!」」」



川端西高校野球部は、まずは刈田の家に目標を定め走っていった。




第2章 終わり

 

 

 

 

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