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現状分析

 

___________________9月9日 川端西高校グラウンド_________________



鋭い音を立て、一人の球児が素振りをしている。球児の名は具志堅 海。1年生。
太い腕でバットを操るその1年生を、2人の2年生が見つめていた。

「うん?見かけない顔だけどいい音させてるな。誰だ?知ってるか?角屋」
「そりゃ俺はキャプテンだからな。・・・・・・あいつは具志堅。今月大阪の方から転校してきたらしい。月曜日に野球部に入部してきた。」

「ふーん。で?野球経験はあるのか?・・・・・・ま、あの振りは未経験者には出来んかな。」
島田さんは左打ちの1年生を見ながらそう言った。

「詳しいことは知らんけど、あることはあるらしい。・・・でな、あいつちょっと変わったやつみたいなんだ。」
「ん?どういう風に?」
「人間的にどうかは知らんけどな・・・・・・趣味が筋トレ、特技が腕相撲、って初っ端の自己紹介で言ったらしいぜ。」

そんな具志堅のプロフィールを聞いて、たちまち島田さんは目を輝かせた。
「へえー、それは面白そうなやつだな。よし、いっちょからんでみるか!」

そう言うなり、島田さんはハイスピードで具志堅の方に駆け寄った。


・・・
・・・
・・・


「よぉ、1年生。なかなかいい振りしてるじゃん。」
「あ、どうも。えーと・・・・・・」
「そうかそうか。やっぱり入部4日目じゃ先輩の名前も聞かされてないか。じゃあ早速・・・」

島田さんは、全く何も言われていないのに自己紹介をはじめた。


「俺は島田 昭。2年生だ。ポジションは外野。人呼んで「バタ西のイチロー」だ。覚えておいて損は無いぞ。よろしく。」
「はい、よろしくお願いします。・・・・・・なるほど。イチロー、ですか」

この人はこの異名がかなり気に入っているみたいで、初めて名乗るときは必ずこれを強調する。
・・・・・・が、一週間以内には誰もそんな異名を呼んでいないことがばれてしまい、結局その名は闇に忘れ去られてしまうこともしばしばだ・・・・・・・

「おーい!ちょっと待てよー、島田!・・・・・全くお前はいっつもいきなり走り出すから困る・・・・・」
角屋さんが遅ればせながら到着した。
「何だ、お前も来たのか。・・・・・・ちなみに具志堅、こいつはキャプテンの角屋な。」
「いや、いちいち紹介しなくても俺はもう言ったぞ。」

「・・・あ、そうなんだ。まあいいや。前置きはこれぐらいにして・・・・・・お前、腕相撲が特技なんだって?」
「はい。ここ数年はほぼ負け知らずです。」
「おーっと、大きく出たな。」
「なんせ、あの鷲田に勝ったらしいからな。」
角屋さんが横から付け加えた。

「へえー。鷲田ってあの柔道部のでっかいやつだろ。すごいな。・・・・・・よし、じゃ、俺と勝負だ!」

うわー、島田さん、展開速いな・・・・・・



3人は勝負のため、ベンチに入った。

「おっと、初めに言っておこうかな」
角屋さんが切り出した。
「島田はこの通りちっちゃいけど、相当強いぞ。なんつーかこう、パワーが凝縮されてる感じだな。バッティングでもよく飛ばすし。・・・・・・というわけで、こいつがいまんとこ野球部最強じゃないか?」
「野球部最強!」

具志堅の闘争心がざわめいた。確かにあまり大きくないな・・・・・身長は170あるかないかぐらいじゃないかな。

「さて、いこか。」
島田さんと具志堅が手を組んで、ベンチの上にひじを置き勝負の体制に入った。


「位置について、よーい・・・・・スタートッ!!」
なんですか?位置について、って・・・・・・まあいいや。とにかく勝負は始まった。

「くっ・・・」
「ぬっ・・・・・・!」


さすが川端西高校野球部最強の人だ。そう簡単には動かない。


「はっ・・・・・・!」
「・・・・んむぅ・・・・!」


・・・・・・本当に動かない。硬直状態。



勝負は1分を超えた。



「ふぬぅ・・・・・・!!」
「・・・・・クッ・・・・・」


・・・・クククククッ・・・・


徐々に、徐々に、具志堅が島田さんを押していった。


グーッ・・・・・・・・


「・・・・ハァッ!!!」


あと5cmぐらいのところで、具志堅は一気に勝負をかけた!

「うわっ・・・・!」
「そこまで!!勝者、具志堅!」

ここでまた一つ、具志堅は新たな称号を得た。



「うわぁ、本当にお前強いな。」
島田さんはつくづく感心してそう言った。

「いやいや、先輩もものすごかったですよ。これだけ強い人と戦ったのはほんまに久しぶりです。」
「そうだな。俺も負けたのは久しぶりだ。・・・・・・野球やってるやつで、腕相撲で俺に勝てるやつなんて、あいつしかいなかったもんな・・・」
島田さんがしみじみとつぶやいた。

「・・・・・・あいつか。そうだな、あいつはやっぱり圧倒的だもんな・・・・・・具志堅、お前でも負けるかも知れんぞ」
再び具志堅の闘争心が刺激された。あいつ?あいつって誰だろう。圧倒的、か。一度戦ってみたいな。



「まあとにかく、お前は筋力はすごくよく出来てる。たぶん自分で鍛え方知ってるんだよな。」
「ええ。だいたいは。毎日家でウェイトやってます。」
「うん、その点は十分OK。俺から言えることは何もない。・・・で、お前、ポジションはどこ希望だ?」
角屋さんは聞き忘れていた事を尋ねた。


「えーと・・・・・・一応サードです。ファーストもやってました。」
「サードか・・・南条とかぶる・・・のは別にいいんだが、お前サードやるにはまだちょっと出来てない部分があるな。」
「はぁ。」
「反応がいまいちなんだよな。あれではちょっと強い打球は任せられないかな。」
「・・・・・・なるほど。」

「まあそういうことで、ノックを中心に敏捷性を鍛える練習を中心にやっていけ。よし、まずはいまあっちでやってるインターバルから行ってこい。」
「はい!」
さすがキャプテン。いくら後輩がすごいところを見せた、と言ってもやっぱりきちんとその辺は指導するんだな。


「・・・楽しみなやつが入ってきたな、キャプテンさんよ。」
「島田、具志堅、そして南条、か。左打者が3枚そろった。・・・打線はかなりいけそうなんだけど、問題は・・・・・・・」
「・・・・・・ま、今はそれは言わないでおこうや。」

二人はため息をついて、ブルペンのほうを見やった。


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・


「角屋君、メニュー後どれぐらい残ってますか?」
「うーんそうだな・・・・・あ、もうあとちょっとで終わりだ。・・・・・ところで藤谷、どうだ、エースの仕上がりは。」

「・・・・・・」

藤谷さんは即答できなかった。・・・え?

「・・・やっぱりあんまりよくないか・・・・・」
「・・・・・・・いや、決してよくない、って事は無いんですよ。決してね。中津川君も中津川君なりにがんばってくれてますし。・・・・・ただどうしても、本当はいけないんですけど、先輩たちと比べてしまうんですよね・・・・・・」
「・・・木田さん、谷嶋さん・・・・・バタ西の二枚看板、か。確かにあのレベルを要求するのは酷だよなぁ・・・・・」


中津川さんは野手を相手に遠投をしている。・・・・・・正直、あまりすごいとはいえない。


「・・・野球は球速が全てではありません。ですが、やはりある程度の肩は無いと・・・・・・」
「・・・・でもなぁ・・・・・あいつよりいい球が投げれるやつが、今のバタ西にいないのもまた事実だよな・・・・・・」
「問題はそこなんです。その一点に尽きるんです。・・・・・・まあ、中津川君の力を最大限、いやそれ以上に引き出せるようがんばって研究しときますね。」


2003年夏の新島県大会、ベスト4。2004年県大会、準優勝。
川端西高校は着実に実績を積んでいる。
だが、その行程を支えた男たちが抜けた今、バタ西は大きな壁にぶつかろうとしていた。


補充。それが今シーズンの川端西高校における最大のテーマだろう。

栄冠の場に立つために・・・・・・

 

 

 

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