原点

 

___________________9月13日 川端高校_________________


「へぇ〜、ここが川端高校かぁ・・・・・・言っちゃ悪いけど、ぼろいなぁ・・・・・・・」
バタ西だってそんなにきれいな学校だとは言えない。だがそれにしても、ここの壁の傷つき具合といい、設備のさび具合といい・・・

「さすが天下の旧制中学、って感じやな。」
角田監督が、校舎全体を見渡してそういった。

「あ、監督」
「そうや、これから相手監督の春名さんに会いに行くねんけどな、南条も来るか?」
「はい」
公立ながらあれだけ統制の取れてたチームを作った監督・・・・・・どんな人だろう?


・・・
・・・
・・・


「あ、おったおった。春名さん!」
「・・・おお、角田さん、おはようございます」
春名監督は、角田監督と同じかちょっと下ぐらいの、50歳ぐらいの人だった。

「いやほんま、急に試合頼んですんませんね。大変だったでしょう。」
「確かに昨日いきなりですからね。・・・まあでも、うちとしても一回実戦しときたかったですから願ってもなかったことですよ。感謝してます。・・・今日は夏のリベンジ、させてもらいますよ。」

やっぱりこの練習試合はいきなりだったのか・・・・・・・いくらなんでもこんな大切なこと、伝え忘れるわけないよな・・・・


「あ、ちょっと生徒が呼んでるのでそろそろ・・・・・・」
「今日はお互いベストを尽くしましょう」

春名監督は外野へと走っていった。


「あの監督とはな、社会人時代からの知り合いやねん」
「え?」
2人がバタ西が練習している所へ戻る途中、いきなり角田監督が言った。

「ええセカンドやったで。守備はアマチュアでは日本一だったんちゃうか。まあ結局プロには行ってないんやけど・・・・・
かなり頭の切れる人でな。選手を辞めたあとは社会人のチームでコーチとか監督とかやって、その後東京の昭成(しょうせい)高校の監督に就任したんや。」

「昭成高校・・・・・・あ、そういえば今、俺の中学シニアのチームメイトが推薦で行ってます。結構名門じゃないんですか?」
「結構どころか、名門中の名門。西東京の甲子園常連高や。・・・と言っても春名監督の就任前まではそうでもなかってん。あの人が、昭成の基礎と伝統を作り上げたんや。」

へぇ〜、あの人すごいんだな。そりゃ川端も強いはず・・・・・・・・ん?

「でも、そんなすごい高校で監督やってたのになんでまた普通の公立の川端高校へ?・・・・・・まさかクビになったとか?」
「とんでもない。あの人が自分でやめた。そん時昭成側は選手も学校もOBも一丸となって引き止めにかかったそうや。」
「・・・・・・何か理由があるんですか?」


角田監督は少し間をおいた。


「・・・その話はワシがバタ西の監督になった経緯にも通ずるんやけどな。春名さんは「名門の野球」に疑問を感じたらしい。
さっきお前が中学のチームメイトのこと言うとったけどな、昭成の野球部はほぼ全員推薦で来たメンバーなんや。そんなんやから小さい頃から野球だけやっとるやつばっかりやったらしい。

で、あの人はそれを見て思ったんやって。この子ら本当に野球が好きでやってるんやろか?周りに言われて成り行きで、とかただ有名になってお金稼ぎたい、とかそんなことだけを目標にしてるんじゃないか?って。
もちろんそんなんばっかりじゃないとは思うけどな。まあそれは、あの人も十分わかってるやろ。」


グラウンドの外野では春名監督が選手を集め、なにやら話をしている。練習試合のミーティングだろうか。


「そんな疑問を持ち始めた頃、あの人はたまたま出来たばっかりの川端高校野球部を見る機会があったんや」
「出来たばっかり・・・・・・え!?あそこって昔から野球部あるんじゃないんですか?」

「俺もそう思ったんや。でもちゃうんやて。・・・・・・ほんまに野球好きな奴らが自主的に立ち上げて、練習場所も満足にないままやってたらしいわ。その子らの目を見て春名さんはな、「ああ、これが野球ってもんの原点なんじゃないか?俺のやりたいことは、ここにあるんじゃないか?」、こう直感的に感じたらしいんや。

顧問は野球部のことなんかどうでもよくて、ちゃんとした指導者もおらん。この子らせっかく一生懸命やってんのにかわいそうやないか。ここで、川端高校で野球教えたいな・・・・・・・・そういう思いが強くなっていったんや。」


なるほどなぁ。いかにも伝統の野球部って感じだったけど、そんなことがあったんだ・・・・・・・


「そう思っていた矢先にやな、昭成に後継者、つまり今の昭成の監督が見つかって、あとはこいつに任せれば大丈夫や、と。そういうわけで春名さんは川端高校に移った。それで川端を一から育てて、今ではあれだけ強くなってるんやな。

でな、その後ワシもその話を聞いて、面白そうやなと思って。なんかこう、ワシも野球ってのをもう一度見つめ直してみたいな、って。その時またこれがなぁ・・・・・・めぐりあわせって言うんかなぁ・・・・・・川端西高校野球部をもう一度作って、そして悲願の甲子園へ、って強く願っていた地元の人たちとバタ西の校長から偶然ワシに要請がきたんや。」

「へぇ・・・・・・地元の人たちから・・・・・・」
「そや。ワシらな、結構期待されとるんやで。・・・・・・それで、社会人の監督やめて、廃部になってた川端西高校の野球部に就任して立て直していって、今に至る、と。・・・・・・・・・・・・・・・・・さ、話はこの辺でおしまい。もう試合や。張り切っていけよ」
「はい!」


・・・
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試合は結局負けてしまった。7−3。中津川さんがやや打ち込まれ気味だったのが不安だ・・・・・・
コントロールはなかなかよかったが、追い込んでから決めることが出来ない。
ファールで粘られたあげく痛打される。やはり、やや球威不足ですかね・・・・と、藤谷さんは語っていた。

だがそうはいっても、やはりあれだけの攻撃が出来る川端高校打線はさすがだ。
昨年の喜久、土岐のような強力な柱はいないものの、緻密でスキがなかった。
でもそれだからといって、そんな打線に打たれるのはしょうがない、とあきらめるわけには行かない。勝ち進んでいけば当たる可能性は十分にあるんだから。


一方のバタ西打線。4回、角屋さんの3ランで得点を加えたが、それ以外にこれといった攻撃がみられなかった。
南条、新月の1年生は無安打。「スタメンはあくまでも暫定。その日の調子を見て外す事だってあり得る」と監督が前に言ってたからなぁ・・・・・・・どうか秋季大会では出れますように。

その他には藤谷さんが2安打、島田さんが痛烈に右中間を破る二塁打、その後三盗をしてアピールした。


もう秋季大会まで時間がない。残念ながら、3年生の抜けたあと力が落ちていることは否めないようだ。
2005年春のセンバツに出場という目標が、少しだけ遠のいた気がしないでもない・・・・・・・・・・・

 

 

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