拒絶

 

__________________9月16日 川端西高校グラウンド_________________


さあ、いよいよあさってから大会か・・・・・・3日前は負けてしもたもんなぁ・・・・・しっかり練習せんと。
新月は、いつもの朝練が始まる時間より1時間半ほど早く来ていた。

ふふふ、今日は俺が一番乗りやな・・・・・・・・って、あっ!・・・・・ちくしょう・・・・・

グラウンドには先客がいた。島田さんとあと一人は・・・・・・・・・土方さん!?
二人はキャッチボールをしていた。

「おはようございます!」
先に島田さんがその挨拶に気づいた。
「お、新月か。・・・啓、こいつは新月。前にも見たとは思うけど・・・・・・俊足が武器の将来有望な遊撃手だ。」
「いやいやそんな」
「・・・よろしくな。新月。」

「ところで・・・土方さんはもう野球部に入りはったんですか?」
「うーむそれがなあ・・・・・・このところずっと頼み込んでるんだけどあの監督なかなか頑固で・・・・・」
島田さんは渋い表情になった。

「・・・ま、俺が昔したことを考えると、仕方ないんだけどな・・・・・」
土方さんはうつむいてこうつぶやいた。


しばらく重い空気が続いた。


「そうだ、新月、こいつの球、見たことあるか?」
島田さんは土方さんを指差して言った。
「え?いや、ないですけど・・・」
「まあそうだよな。啓、ちょっと見せてやってよ!もう肩はだいたい出来てるだろ」
「・・・おう、わかった。」


土方さんは20メートル近く離れた。

「いくぞ」
土方さんが振りかぶって・・・・・・あまり重心を移動させずに足だけ上げた。なんかメジャーの投手みたいやな・・・・・
そして、これまたあまり体を使わず上背から投げ下ろす。
俺が言うのもなんだけど、あんまりきれいなフォームとはいえないな・・・・・

「キュルルルッ・・・・・・
パンッッ!!」
「!!?」

「・・・つっ!!」

・・・速い!?なんだ、今の速さは!?

「・・・ったく、やっぱりお前の球はグローブなんかじゃ受けられないな。回転が汚くて球が揺れるからきちんと取れないんだよな・・・・・・この後授業中シャーペン持てないかも・・・・・」
そういいながらも、島田さんは、なんだか嬉しそうだ。
球が揺れる・・・・・・?それが本当だとしたらすごいぞ・・・・・・・・今のスピードにそんな特徴が合わさったら・・・・・・まず打てないだろうな。

「・・・いやあ、ちょっと力が入ってしまってな。・・・なあ新月、俺、野球部入れると思うか?」
不意にたずねられた新月はあせってしまった。

「・・・え、ええ。そりゃあれだけの球があればもちろん。俺が決めるもんじゃないですけど、ぜひ入ってもらいたいですよ。」


・・・これはいける。あの球が、試合できちんと発揮されれば地方大会ぐらい余裕・・・・・・かも・・・・・



__________________放課後 川端西高校グラウンド_________________


グラウンドがざわついている。いつもと雰囲気が違う。原因は、どうやらあの一塁ベース近くにいる大きな大きな影だ。

「なあ、新月、あれ土方さんだよな?」
南条は近くにいた新月に聞いてみた。
「ああ、そうやな。」

「・・・もう野球部入ったのかな?」
「俺も朝来たとき、本人におんなじこと聞いてんけどな。まだ監督が許可してくれへんらしいで。」
「そうか・・・・・・で、そんな状態でグラウンドにユニフォーム着て入って、なんか練習してるんだよな、あの人・・・・」
「そやなぁ・・・・・・大丈夫なんかなぁ・・・・・・まああれぐらいやったら別にええんちゃうか。」


「ようないわ!」

二人で話していると、いつの間にか後ろに監督がいた。
「いつから追ったんやあいつ、え!?・・・早よ追いださな・・・」


監督は土方さんのほうに駆け寄っていった。


「・・・監督、なんであそこまで拒絶するのかなぁ・・・・・?」
「・・・さぁ・・・・・昔なんかあった、とか言うてたけど・・・・・・」


・・・
・・・
・・・


「おい土方!何勝手なことしとんねん!ここは野球部の練習場所や、早よ出て行け!」
「監督、まだ許可されてないのは分かってますけど、見学、という形でちょっと練習するぐらいいいじゃないですか・・・・」
「島田は黙っとれ。わしは土方に言うとるんや。ほら、出て行け」


「・・・いやです。このまま昭と練習を続けます」
「なんやて?」
「・・・野球部への入部を許可してくれるまで動きません」

「・・・」

こう言われると監督も動けない。入部を拒否すること自体、正式な効力を持ってやっているわけではないのだから・・・・・・

ここである考えが浮かんだ。

「・・・そうか。でも、残念ながら動いてもらうで。・・・お前、進級が危ないんやってな。最近ちゃんと授業出てるらしいから何とかギリギリいけそうやとか言うてたけど・・・・・・これ以上問題を起こしたら、どうなるやろな・・・・・」
「・・・?」

「今お前がしていることは野球部に対する妨害行為や。・・・こっちは秋季大会2日前。その大会にはな、校長を始め学校関係者の方々みんなが期待をかけてくださってる・・・・・・これ以上お前が妨害を続けてその期待を裏切らせるようなことがあったら・・・・・」
「・・・どういうことです?」
「・・・ま、例えばの話やけどな、学校側に訴えれば、お前を無理やりつまみ出す事もできるんちゃうかな・・・?もし従わなかったら、決定的に素行不良で単位を削る、とかな・・・例えばの話しやけど。」
「・・・!?」


島田さんが表情を一変させて、角田監督にくいかかっていった。
「・・・監督!!なんで、なんでそこまでして啓を・・・・・・監督は、そんな権力に頼った汚い手段を使う人じゃないでしょ!?・・・・1年前のことなら、もう謝ってたじゃないですか!?」
「・・・なんや、島田。それ以上たてつくんやったらお前も・・・」

「やめてください!」

土方さんが2人の間に割って入った。
「・・・もういいです。俺が帰ります。それで万事解決するんですよね・・・・・」


大きな影が、グラウンドの外へと飛び出した。


・・・
・・・
・・・
・・・
・・・

「島田さん、1年前、何があったんですか?」
ベンチに沈み込んでいた島田さんに、南条は思い切って声をかけてみた。
「・・・ああ、南条か。」

島田さんはグローブを・・・土方さんのだろうか・・・手に持って見つめていた。
「あんな監督、見たことありませんよ。・・・・・なにかよほどのことが・・・・・」
「・・・・・・そうだ。よほどのこと、があったんだ・・・・・」

そして島田さんは、1年前の出来事を話し始めた。

 

 


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