スミスと金やん

 

__________________9月17日 川端西高校 1年1組_________________


「なあ新月、今日って確か、練習休みだよな。」
自分の記憶にいまいち確信の持てない南条は、念のため確認を取ってみた。

「ああ、そうや。監督が試合前は変に動かんと休んだ方がええ、って・・・・・・ほんまかなぁ・・・・・・」
新月が疑問を持つのも無理は無い。この高校に入ってから初めてだ。試合前は完全休養、なんて。
「今日はなんか、学校も午前で終わる見たいだしな。相当時間余るなぁ・・・・ま、ゆっくりするとするかな・・・」


「なあ、二人とも、今日空いてるか?」
二人が話しているところに、具志堅が入ってきた。
「え、いや別に大丈夫やけど・・・・・・」
「うーん・・・今日はゆっくり寝る予定なんだけど・・・・・・」


「あのな、今日俺が下宿してる親戚の家の子供、つまり俺のいとこのリトルシニアの試合があるねんけどな、それを見に来て、って言われててな。自分らも一緒にいかへん?・・・・・・そのいとこなんやけどな、来年バタ西に入る予定らしいで。」
「ふーん、そうなん。そういうことなら刈田も連れて行ってみようかな。あいつ、未来の戦力を見るのとか好きそうやし。」
「よし、決まりやな。」


一応付け加えておくが、南条の発言は完全にスルーされた。




__________________ 軒並市民の森球場 _________________


「・・・グッち、意外と遠いやないか・・・・・」
「そうだな、もう2時になるか・・・・・・まあ、まだ試合はやってるから大丈夫やろ」
川端市から軒並市にあるこの球場まで、結局1時間以上かかってしまった。


そして4人は、球場へと入っていった。


「お、やっとるやっとる」
「うん。・・・・・・あ、今ちょうど投げてるのが俺のいとこ、八重村 諭 (やえむら・さとる)だ。」
「へぇ〜・・・・・・って、中学生でアンダースロー?変わってるな。」
「そうなんだよな・・・・・・俺からも体に負担かかるからやめとき、って言うてるんやけどな・・・・・・本人はそのほうが抑えれるから、って。」
なるほど。ま、怪我さえしなけりゃ本人の自由だよな。

八重村がボールを放った・・・・・・・ん!?
「お、なかなか速くないか?アンダーにしては。」
「相当速いらしい。MAXで124キロを記録したとか・・・・・」
「124!それはなかなか・・・・・・これは早速部長に報告しないと。」

諜報部がすっかり板につき始めた刈田が、早速メモ帳を取り出してチェックする。



「・・・・・・ん?あれは・・・?」
「どうしたん?ジョー?」
「いや・・・・・・あれ・・・・・・まさかとは思うけど・・・・・・」
南条が指差した先には、初老の男性が・・・・・・・・・監督!?


「監督!」
「ん?誰や?・・・・・・おお、南条に新月に刈田に、それに具志堅か。なんでお揃いでこんなところにおんねん?」
「いや、俺たち具志堅に誘われてきたんですよ。」
「ふーん。具志堅、なんか理由があるんか?」


グラウンドではチェンジになっている。スコアボードに目をやる。八重村はいまだ無失点のようだ。


「はい。今投げてた川端チェスターズの投手が俺のいとこで・・・・・・それで見に来て、といわれたので来ました。」
「ほぉ。あれ、お前のいとこか。なかなかええ球放っとるやん。」
「そうでしょ。で、今あの子、川端西高校を志望してるらしいですよ。」

「何?それは本当か?・・・いや、ぜひ入って欲しいで。鍛えればかなり戦力になりそうや。具志堅、志望校が変わらんよう、ちゃんとダメ押し頼むで・・・・・・って、こんなこと言うていいのかわからんけど。」
「もちろん。任せてください」



再びグラウンドを見てみると、チェスターズのバッターが打席に入っていた。

「カンッ!」

外角の球を上手く流し打った。上手いな。今の。なんてバッターだろ・・・・・・2番センター、板橋、か。


「ところで、監督はなぜここに?」
お返しに、刈田が質問した。
「ああ、ワシはちょっと気になることを聞いてな、ある人を探しに・・・・・・探してるけどみつからんなぁ・・・」
ある人?誰だろう?

そのとき、後ろから男の人が声をかけてきた。監督に用があるようだ。
「・・・・・・あのー、すいません。」
「はい・・・・・・
あっ!」
「やっぱり!スミスさん!」


「「「「スミスさん!?」」」」
なんだ、それ!? 4人同時に驚いてしまった。


「あ、スミスって言うのはな、ワシの社会人チーム時代のニックネームや。で、この人が今探してた金やん。後輩や。」
金やん、か。おそらくそれもあだ名かな?

「そうそう。金田です。いやー、ものすんごく久しぶりですね。」
「そやなー、もう15年以上になるかなー。たまたま川端チェスターズにいる選手の父親が金やんだ、という情報を聞いてな、それでもしや、と思ってきてみたら・・・まさか本当にあえるとは」
「いや、ほんまに奇遇ですねー。で、何でスミスさんは新島に?」
「ああ、ワシはな、3年前から川端西高校の教師やりながら、野球部の監督をさせてもらってますねん。」
それを聞いて、金田さんは心底驚いた。

「バタ西高校!?って、うちからものすごい近所やないですか!?・・・・・・そうか、最近あの高校、野球部が調子ええとは聞いてたけど・・・・・・・スミスさんが監督やってたんか・・・・・納得・・・・・・」
「へぇー、あんたの家の近所やったんか・・・・・ま、灯台下暗しってやつやな、お互いに」
角田監督と金田さんは、互いを見ながらうなずきあった。

「ところで、この子らはスミスさんとこの生徒さんですか?」
「そや。4人そろって将来の川端西高校を支える人材や。甲子園でお目見えするかも知らんから、よう覚えとき」

4人は少し照れてしまった。


打席には、
チェスターズの4番バッターが立っている。
「あ、みなさん、あれが僕の息子、貴史(たかし)です。」
「へー、4番打っとるのかー。すごいな。」
「本当に才能抜群でね。僕の息子とは思えませんよ。」
「いやいや、お前もなかなかのもんを持ってたやないか」
「いえ、貴史はそんなん比較にならないぐらいのものを持ってますよ。・・・ちょうどいい、一度見てみてください。」

1アウト、ランナー1,2塁。カウント2-1、追い込まれている。
ピッチャーが投げる・・・・・・内角きわどいコース、いい球だな・・・・・・・・


「カキンッ!」
「!?」


・・・なんだ!?今の体の回転!?・・・すごい、もしかしたら、角屋さんもびっくりじゃないか・・・・・???


そして打球は、豊かに伸びてスタンドへ飛び込んだ。


「・・・あんな感じです。」
「・・・・・・すごいな、お前の息子。あの球をあんなところまで・・・・・」
「この大会の打率が今、7割を超えてるんですよ。・・・本当に俺の子なのか?って時々嫁に聞きますけどね」
金田さんは笑いながら言った。・・・・・7割・・・・・・ただもんじゃない・・・・・

「金田さん、あの貴史君、どこの高校に入る予定なんですか?」
金田貴史のバッティングに度肝を抜かれた新月が、期待を込めて聞いてみた。

「お、君、なんか関西のイントネーションやね。」
「はい。大阪に15年ほどいました。」
「なるほどな。で、うちの息子なんやけど・・・・・・なんか、陽陵に入る、とか言うてたわ。」

「・・・やっぱり、スカウトとか来てるんですか?」
「うーん・・・・・・そろそろ来るとか言うてたな。ま、それもあるんやけど、本人は家から通える範囲で野球をやりたいらしくてな。疲れるから、って。で、その範囲で甲子園に一番近いところ、といえばやっぱり陽陵かな、って言うてましたわ。」


「「「「「はぁ・・・・・・」」」」」


角田監督はもちろん、川端西高校の面々は一同にため息をついた。
そりゃあれだけのバッターだもんな・・・狙われないわけないよな・・・・しかも甲子園が近い、って条件なら、去年夏、今年センバツ、今年夏、と出場してる陽陵が明らかに一番だしな・・・

「で、父親として、僕もそれには賛成してたんです。・・・・・・でも、今考えを変えました。」
「え?」


「まず家からの近さ。そりゃ陽陵も新陽(しんよう)市ですから電車で行けば1時間強ぐらいでいけますけど、バタ西なら自転車で15分もあればつきますからね。次に甲子園への近さ。川端西高校は最近、すごい快進撃をしてらっしゃるんでしょう?」
「まだ甲子園には行けてないけどな。去年の夏ベスト4、秋はベスト16、そして今年準優勝や。」
角田監督は、誇らしげに実績を説明した。

「そうでしょう。もうあと一歩やないですか。陽陵にも引けをとらない強豪ですよ。そして何よりも、スミスさんとこになら安心して貴史を預けられます。うちのこの力を最大限伸ばしてくれると僕は思いますよ。」
「うん。もし入ったら、伸びるかどうかは結局本人次第やけど、ワシは全力でやる。それは保証する。」
「よし。あらためて決めました。息子に、川端西高校を志望するよう言うときます。」
「ま、それは願ってもないことなんやけどな。最後は本人が決めることなんやから、無理強いはせんときな。」


まだ入部が確定したわけではない。でも、もし入ることになればまたとない強力な戦力になる可能性を秘めている。
具志堅のいとこもええ感じやし、これは来年、すごいことになりそうやで・・・・・・・

4番サード、金田貴史、か・・・・・・・・・・・ん?サード?ジョーとかぶるやんけ?・・・・・・ま、ええか。

 

 

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