当然、変則、予想外

 

__________________9月19日 一回戦 新陽球場_________________


18日に開会式を終え、川端西高校の初戦は今日19日に行われる。
「今日の相手は石部高校か・・・・・・あれ?なんで清瀬町にあるのに石部高校なんだ?」
今日も疑問符を連発するこの男は・・・・・・もちろん南条である。
「清瀬町が石部郡にあるから、だと思う。たぶん。」
そして答えるのもいつもの通り刈田であった。

「・・・・・・それにしても、チーム人数11人か・・・・・・」
「廃部寸前、だよな。かわいそうに・・・・・・」
「まあレギュラーにはなりやすいだろうから、その点ではいいかもしれないけどね・・・・・・・」


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「では・・・あれや、今日のオーダーを発表するで

1番 島田
2番 南条
3番 中津川
4番 角屋
5番 藤谷
6番 村岸
7番 林部
8番 山江
9番 新月

おそらく、このオーダーが今後も基本になってくると思う。ま、あくまでも暫定やけどな。とにかく気ぃ締めていけよ!」
「「「「「はい!」」」」」

ほぉー、ジョーのやつ、2番か・・・・・・なかなかやるな。


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11−2。一回戦は、7回コールドで川端西高校が勝利した。
3年生引退後初の大会。打線はそれほど抜けた穴が目立たないようだ。
島田さん、角屋さんがそれぞれホームランを放ち、夏からレギュラーを張っている意地を見せ付けた。
南条は1安打。レギュラー起用に応えた。新月は無安打。・・・ま、エラーしなかったからいいか。

しかし、バッテリーにはやや不安が見て取られた。
2点しか取られなかったとはいえ、相手は夏の大会でも1回戦敗退のチームである。どう判断したらよいものか・・・
特に、中津川さんに四球が目立ったのが気になる。藤谷さんのリードは、研究の甲斐あってこの前よりよかったようだが・・・

ただ、打撃の方は2人とも好調だった。
藤谷さんが得意の流し打ちでランナーを進めたりと2安打。中津川さんはなんと3安打2打点。

さ、次の相手はどこだっけ・・・・・・


__________________9月23日 二回戦 川端南公園球場_________________


「よっしゃ、今日はホームグラウンドですな。張り切っていきましょうや」
新月が謎のテンションを見せていた。まあ確かに川端市内の球場だけど・・・・ね・・・・・・・
「そうだな。まあ今日もそんなに強くない高校だから。十分いけるだろ。うん。」

角屋さんが藤谷さんに手渡された相手チームの情報をみる。
一場商業、か。まあ夏の大会も1回戦負けしてるみたいだし、何とかなるだろうな。


・・・
・・・
・・・


「今日はちょっと変則オーダーで行って見るで。後々に控えている強豪打倒のためにいろいろやってみる、ってことで。」

野球部のメンバーたちがざわつき始めた。ただでさえ突飛な起用の多いこの人が言う「変則」。俺たちの想像の領域をはるかに超えてそうだ・・・・

「じゃあいくで。1番 キャッチャー 藤谷」
「・・・!?・・・え!?僕ですか!?」
「そや。何か異議でも?・・・・・ありそうやな・・・・・・」
「いや、足遅いのに僕が1番なんて・・・・・」
「最近は足速いから1番、とも限らんぞ。打撃技術があれば出塁できるし何とかなるもんや。」

そういえば、去年優勝した関西ウルブスの1番打者、あんまり足速くなかったよな・・・・・・でもそれにしても、藤谷さんの鈍足は度を越して・・・・ってこんなこと言ったら悪いな。自粛しよう。

「続けるぞ。
2番 ショート 新月
3番 ファースト村岸
4番 センター 島田」
「・・・ほ、本当ですか!?」
「ああ、4番島田や。」
「・・・よっしゃっ!ついに4番だ!!」

島田さんのやる気が大幅アップした。これは期待できるかも・・・

「5番 サード   具志堅
 6番 ピッチャー 中津川
 7番 ライト   角屋
 ま、強豪相手に角屋を下位で使うつもりは無いけどな。一応今日は成り行き上こうなったからな。」
「はい」
角屋さんの表情に、不満はなさそうだ。

「8番 レフト 後藤
 9番 セカンド刈田 
以上。今日の結果次第では基本オーダーが変わることもあるからな。心してかかれ。ええな!」

「「「「「はい!」」」」」

南条は今日はベンチ。角田監督の競争作戦が発動したようだ。
さ、今日のメンバーから強烈にアピールするものは出てくるだろうか・・・


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試合終了。ベンチで藤谷さんが中津川さんに注文をつけていた。
「中津川君。ちゃんとサイン見てますか?」
「いや、目には自信が・・・・・・」
「・・・逆球が多すぎます。あれでは明日の陽陵戦には歯が立ちませんよ?」
「・・・・・了解。明日は気をつける。」
藤谷さんにとって、中津川さんのピッチングはかなり不本意なものだったようだ。藤谷さんの表情には怒りさえ読み取れる。


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確かに自分が悪い。それは分かっている。でも、なにかこうモヤモヤした理不尽のようなものを、中津川さんは感じていた。
「ちっ、好き勝手言いやがって。俺以外に投げる奴がいないからやってるのに・・・・・・・」
しかし中津川さんには、誰もいないところでこう愚痴るのが精一杯だった・・・・・・・


・・・
・・・
・・・


で、結果は6−3。お世辞にも、今日の変則オーダーは成功とはいえなかった。いや、むしろ失敗・・・・かな・・・・・?
とにかくつながらない。ヒットは16本も飛び出したのだが・・・・・・
特に、初4番の島田さんは力みに力んでまともにミートできていなかった。これは確実に失敗だ。
監督の言ったとおり、1番藤谷さんは3安打を放ち出塁者としての役割を果たした。が、後の打者がことごとく凡退し、いまひとつ得点につながらなかった。

そして、バタ西での初試合だった5番サード具志堅。やっぱりサードはやめたほうがいいんじゃないかな・・・・・・
なんと3つもエラーを出してしまった。が、バッティングではフェンス直撃の2ベースなど2安打。
スタメン入りはやや微妙だが、代打出場へのアピールは十分できたと言っていいだろう。

刈田は無安打。うーん、相変わらず守備は最高なんだけどな・・・・・・・・



__________________9月25日 新島市街_________________


第三試合は27日。そこから連戦が続く。それに備えて、完全休養・・・・・・・といったことをせずに、新月と南条は新島県の中心都市、新島市に来ていた。ま、今日はとりあえず息抜き、って事で。

「ぬぅー・・・・・・やっぱり新島は田舎やなぁ・・・・・・県庁所在地でもこんなもんか・・・・・」
「そうか?いろいろ見るところあると思うけど。」
新島市は地方都市ながら、30万を超える人口を持つ都市だ。そういうわけで結構にぎやかなのだが・・・・・・
「いやいや、こんなんあかんあかん。ああ、梅田とかミナミが懐かしいな・・・・・」
そりゃ大阪と比べられると、ちょっと厳しいかもしれないけど・・・・・・・


「あれ?きみたち、川端西高校の人じゃなかったっけ?」
駅前商店街のアーケードを歩いていると、突然後ろから声をかけられた・・・・・・・中学生か?
「確か・・・・・・南条と新月、じゃなかった?」
「お、そうそう。いやー、俺たち以外と有名なんやなぁ。こんなところで見知らぬ中学生に声かけられるなんて。」

「新月、失礼だぞ。この人、中学生じゃないよ。」
南条は、喜ぶ新月を止めた。
「・・・・・・いいよいいよ、南条。間違えられるのには慣れてるから。」
「・・・え?どういうこと・・・???」
「この人はたぶん・・・陽陵の引出だ。」

「そう。覚えてくれててありがとう。陽陵学園野球部1年生の引出です。初めまして。よろしく。」

・・・そうや!思い出した!あの小っこいピッチャーや!
「ああ、やっとわかったわ・・・・・ごめんな、中学生とか言って。」
「いえいえ。さっき言ったようによくあることだから。」
「確か引出は陽陵のエース・・・・・・・・って、その腕どうしたんや!?」

引出は、左腕にギブスをはめていた。
「うん、ちょっとこの前高いところから落ちてしまってね。」
うわー・・・・・・そりゃ大変だ・・・・・・
「・・・・・たしか君は左投げだったよね・・・・・・大丈夫なの?」
「うん、あんまり大丈夫じゃないみたい。」

引出はけろっと言ってのけた。大丈夫じゃない、って・・・・・

「3回戦はあさってだぞ・・・・・・どうするんだ・・・?」
「まあ、2年生にもピッチャーはいるから。浅野さんとか。・・・ただ、バタ西高校は強敵だからなぁ・・・・」
「・・・・・・そうか。まあ、早めに直るよう、祈っときますわ。」
新月はそういうより他なかった。

「うん。じゃ、またグラウンドで!」
引出は爽やかに去っていった。

エース、負傷か。これは予想外の事態だぞ・・・・・・・

 

 

 

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