影響

 

1塁ベース上には南条。
3番バッター、中津川さんが右打席に入った。
初回に5点も取られてしまったんだ。自分の力で、絶対に取り返さないと・・・!

相手ピッチャー、背番号10を背負った2年生、浅野が右腕から第一球を投じる。・・・まずは見よう。
「ストライク!」
・・・内角へのストレート。球速は・・・まあそこそこ、ってとこか・・・・・それでも俺より速いけどな・・・ははは・・・

・・・いかんいかん。こんなこと考えてブルーになってる場合じゃない。集中集中。
ピッチャー振りかぶって第2球・・・・・・ボール。高いストレート。おそらく見せ球だろう・・・・・・・

第3球・・・・・・・よし、外よりの甘い球だ・・・・・・いける!
「ブンッ!・・・・・・カッ」
中津川さんのバットの先端がボールに当たり、打球は右へと飛んで言った・・・スライダーか・・・なかなかよく曲がるな。

そして第4球。次あたり狙っていくか・・・・・
「スーーーーーーー・・・・・・」
・・・来た!
「ククッ」
「コッ・・・」
芯を完全に外された。しまった、カーブか!・・・・・打球はむなしくピッチャーの方へ転がる・・・・・・

1−4−3。ダブルプレー。3アウトチェンジ・・・・・・・ちくしょう・・・・・・・・


・・・
・・・
・・・


「すまん。せっかくのチャンスを・・・・・・・」
中津川さんが、自責を感じながらベンチへ戻ってきた。
「・・・うん。まあ初対戦だからしかたないさ。まだ8イニングも残ってるんだ。いくらでもチャンスはあるさ。」
キャプテン角屋さんがフォローする。
「それより、お前はピッチングのほうをがんばってくれたらいい。・・・しっかりやれよ。」
「・・・おう!」


・・・
・・・
・・・


2回の表、中津川さんは先頭打者をセカンドゴロにしとめたが、次のバッターに安打を許した。1アウトランナー1塁。

この回3人目のバッターに対して、中津川さんが第一球を投げる・・・・・・・低目へのスライダー。ストライク。
よしよし。無難にストライク先行。この調子で第2球・・・・・・・・


「カキッ!」


相手の左打者がストレートを引っ張った。ライト前へクリーンヒット・・・・・・・・・・ランナー3塁へ進む!

「ザザッ!」

・・・もちろんセーフ。さあ、ランナー1,3塁。・・・・・・さすが陽陵、点差が開いても予断がない・・・・・・


と、ここで藤谷さんがこの試合3度目のタイムをとった。


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「おいおい、ちょっとタイムとりすぎじゃねーか?」
陽陵のベンチのある選手が、不審に思ってそういった。
「・・・うーん、まあピッチャーがあれじゃ、仕方ないわな・・・・・・・」
「バタ西、っつーとやっぱり木田の印象が強いからな・・・・・・今投げてるやつがものすごく劣って見えるよ・・・・・」
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マウンド上に駆け寄った藤谷さんに、今までのような堅い表情は見られなかった。
「大丈夫です。三振を取れればかなり良し、ゲッツーなら文句なしですが・・・・・・外野フライでも高々一点です。気にせず今まで通り行きましょう。」
「うん。そうだな。」
角田監督の指導が、早くも効果を現し始めた。


「プレイ!」
気を取り直して、中津川さんが投げる・・・・・・・・

「カンッ!」

初球打ち!?ずいぶん積極的に・・・・・・・・いや、ショート真正面だ。上手くいけばホームで刺せる。・・・・・・・・・・冷静に、冷静にお願いしますよ、新月君・・・・・・・・・・・

「バシッ!」「あっ!!」

なんと、新月は打球をはじいてしまった。大事な場面なのに・・・・・・

やばい、どうしよ・・・・・・・・・新月は当然あせっている。
ホームのほうを見る・・・・・・残念ながらちょっと無理やな・・・・・・・ファーストは・・・・・いける!
新月は一塁に送球した。・・・・・・・・・間一髪でアウト。よかった・・・・・・・・

でも、あとでたっぷりしぼられるだろうな・・・・・・・・なんせタイムリーエラーだもんな・・・・・・6点目が入った・・・・・・


「ナイス判断です!新月君!さ、これで2アウト!気合入れていきましょう!」
え?・・・・・藤谷さんがホームから叫んだ。・・・・・そうか、ミスはしてしまったけどその後はきちんと処理したもんな・・・
角田監督の指導は相当効果を現し始めているようだ・・・・・・・藤谷さんって、意外と単純?


・・・
・・・
・・・


藤谷さんのどんまいコールが効いたのか、結局2回表の失点は1点にとどまった。よしよし。


・・・
・・・
・・・


「カキンッ!」
角屋さんが、内角低めのスライダーを呼び込んで打った・・・・・・よし、いい感じ・・・・・・2ベースだ!
何とか1点でも、早い回から加えたいところだ・・・・・・・


・・・
・・・
・・・


角屋さんの二塁打の後、藤谷さんがセンター前ヒットで続く。6番の村岸さんは凡退。7番の林部さん、四球。
1アウト満塁の場面で、8番山江さんはきっちりと外野に打球を飛ばした・・・・・・犠牲フライ。1点。

2アウト2,3塁のチャンス。9番の新月は張り切った・・・・・・・・しかし、残念ながら三振に終わった。

2回の裏終了。陽陵学園6−1川端西高校。いぜん点差は5点、か・・・・・・でも1点入れたから、いいか。


・・・
・・・
・・・

「なあ新月、お前スライダー打ち、苦手か?」
守備の用意をする新月に、具志堅が突然話しかけてきた。
「・・・うーん・・・・・・そういやあんまり得意とは言われへんな・・・・・・」
「・・・やっぱりそうか・・・・・・ベンチから見ると、ちょっと体が泳いでたもんでな。」
「スライダーだけが特別苦手、ってわけじゃなくてこう、逃げる球に今ひとつ合わへんねん・・・・・俺・・・・・・」

そうなると、新月が今日の投手を攻略するのはやや厳しいかな・・・・・・直球より変化球が持ち味、見たいな事を刈田が言ってたし・・・・・それに球種がまたスライダー、カーブの2大逃げ球やもんな・・・・・・

・・・
・・・
・・・


3回の表、先頭打者に4球目を投じる・・・・・・


「カキンッ!」


打ったのは左打者。スライダーを見事に捕らえた・・・・・・うわっ、かなり伸びてるぞ・・・・・・これはやばい・・・・・・!

「ドッ」

・・・・・・ふぅ、何とかフェンス直撃か・・・・・・・ランナーは・・・・・・2塁ストップ。
この回もピンチだ。なかなか楽に投げさせてくれないな・・・・・・・・・・

と、ここで、角田監督が審判の方に寄っていった。・・・・・・・まさか・・・・・・・
「ピッチャー交代。中津川の代わりに柴島(くにじま)」

投手が1年の左投げ、背番号11の柴島に代わる・・・・・・・・左打者ばっかりだもんな、陽陵打線・・・・・・

角田監督は、中津川さんに見切りをつけた。この言い方がいいのかどうかはわからない、だが事実上そうだ。陽陵の左打線に対応するのはこれ以上むりだろう、と判断したようだ。
2回3分の0、自責点6。中津川さんの秋季大会3試合目は、かなり残念な結果に終わってしまった。
この結果が今後の中津川さんにどう影響してくるかは・・・・・・もちろんわからない・・・・・

 

 

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