新球種

 

_________________9月28日 新島県民球場 準々決勝________________


試合前のグラウンド。ベンチの前で島田さんがバットを振りながらしきりに首をかしげている。なんだろう・・・・・?
「島田さん!今日も特大ホームラン、頼んますよ!」
新月が陽気に言った。
前の陽陵戦では5打数3安打1本塁打と大暴れだった島田さんに、今日も猛打を期待してるのは新月だけではない。

しかしその期待を知ってか知らないでか、島田さんの表情は浮かれない。
「そうだな・・・・・・打てたらいいんだけどな・・・・・・今ひとつこう、振りがしっくりこないんだよな・・・・・・」

ま、そうは言っても、昨日あれだけ打ててたんだから一日でそう調子が落ちることはないだろう。
それに、今日の相手は軒峰高校。夏にコールドで打ち破った高校だ。
なんてったって、俺たちは新島県王者陽陵学園を倒したんだ。このまま今日もサラッと勝って関東大会に行くぞ・・・!



「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
両チームの選手がホームの前に並んで、互いに礼をする。
「今日はよろしく、藤谷。」
普通なら挨拶が終わったらすぐに解散するのだが、軒峰のひときわ小さい選手が藤谷さんに軽く挨拶した。
「怪我はもう大丈夫なんですか?」
「おかげさまで。・・・・・・今日は夏のようにはいかないぞ。」
そういい残すと、その選手はホームへ向かっていった。背番号2、キャッチャーか・・・・・・

「へぇ〜、あの体格でキャッチャーか・・・・・・」
南条がベンチに帰りながら、思わずつぶやいた。
「彼は体が小さくて肩があんまり強くないですけど、インサイドワークは抜群ですよ。」
藤谷さんもまた走りながら、横にいる南条に言った。
「あの人と知り合いなんですか?」
「そうですね。坂登(さかと)君とは高校になってからの知り合いです。」
「別の高校なのに?」
「過去にちょっとした機会がありましてね。同じキャッチャーで、しかもお互いデータ派ですから気が合うんです。」
藤谷さんの顔がほころんだ。なかなかいい友達なのだろう。

「あれ?でも夏には見かけませんでしたが・・・?」
「あの時は残念ながら怪我で出れなかったみたいです。もし出ていれば、あれだけ楽には勝てなかったでしょうね・・・」
そうか・・・・・・この藤谷さんがそう言うのなら、きっといいリードするんだろうな。
南条は、改めて気合を入れなおした。


この入れ直しが、チーム全体で行われれば、あるいは結果も変わったかもしれないのだが・・・・・・


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「プレイボール!!」
1回の表、攻撃は川端西高校から。当然、1番は島田さん。他の打順もいつも通りだ。
ピッチャー乾がセットからあまり足を上げないで・・・というかほとんど「すり足」で第一球を投げた

「ピシュッ・・・・・・・クッ・・・・・」
「カッ」

お、初球打ち!しかもいいタイミングでストレートを捕らえた!・・・・・が、打球は力なく一塁のほうへ飛んでいった。ファーストフライ。・・・・・・あれ?おかしいな・・・・・・


南条は、自分の目に疑いをかけつつ左打席に向かった。
乾が第一球を投げる・・・・・・・・外角ストレート。ボール。
第二球・・・・・・・低い・・・・・・カーブだ・・・・・・

「ストライク!」
・・・・今の入ってたか・・・・・いいコントロールしてるな。
そして第三球・・・・・・・・内角へのストレート、やや甘い・・・・・・いける!

「クッ!」
「キンッ」

しまった、スライダーか!打球はキャッチャーの前にむなしく転がった。坂登が冷静に一塁に送って2アウト。
今の球、もしかして・・・・・・


「藤谷さん、あの乾って投手まさか・・・・・・」
疑問はこの人に聞くのが一番だ。南条はベンチに入ると、早速藤谷さんに尋ねた。
「そのことについて今、島田君と話してたんです。」
「最後の球のことだろ?」
「はい。あれって、スライダーですよね?」
「そうです。しかも球速は130キロ。」

その数字を聞いて、南条は声を上げずにいられなかった。
「130!?」
「高速スライダーだね。新球種って、これのことだったのか?藤谷?」
「すみません。報告するの忘れてました・・・・・・昨日の陽陵戦でいろいろあって、ちょっと混乱してまして・・・・・・」
藤谷さんでも、そういうことがあるんだな・・・・・・

「いいよいいよ。でも、いつの間にあんな球投げれるようになったんだろうな。本当に。」
「僕が偵察に行ったときにはすでに習得してました。たぶん夏に猛練習したんでしょうね・・・・・・」
高校生で130キロのスライダー、これは相当厳しくなりそうだ・・・・・・


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三番の中津川さんは三振を奪われ、3アウトチェンジ。確かに、夏のようにはいかないだろう。
でも中津川さんがもってくれればそのうち目も慣れて打てるかもしれない。俺は・・・・・・とりあえずそつなく守備しよう。

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「相手打線はたぶんそこまで強力はありません。気をつけて投げれば絶対にいけます。」
「おう」
藤谷さんが投球練習を終えた中津川さんに駆け寄り、激励する。
一回の裏、軒峰高校の攻撃は右打者からだ。


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2番に四球を与えてしまったものの、一回の表は無安打に抑えた。
藤谷さんは、あまり細かい指示はせずに球威重視でリードする。その作戦の滑り出しは、なかなか好調のようだ。

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2回の裏、先頭の角屋さんが肩を落としてベンチに帰ってくる。
「さすが藤谷も認めるキャッチャーだな。よく研究してるよ。」
そう。内角打ちが得意な角屋さんの打席、バッテリーはスライダーカーブで徹底的に外をついてきたのだった。
そんなに大したことなの?、と思うかもしれないが、好打者ではあるもののそこまで名を知られているとは言えない角屋さんをきっちり研究しているというあたりは、やはりさすがだ。ぬかりがない。

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結局2回も、両チームともに無安打に終わった。
乾の高速スライダーが冴える。ただ速いだけではない。キレ、曲がりともに並みの高校生のレベルを十分超えている。よく短期間でこれだけのボールを習得したものだ。たぶん、もともとスライダーを投げるのに向いていて、それを知らなかっただけだろう。
一方の中津川さんは、安打こそ打たれてないものの、2回で42球と効率が悪い。ボール球が多いんだよな・・・・・・


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3回の表。すでに2アウトを取られた。打席には9番の新月が入っている。
バタ西打線を寄せ付けない乾の高速スライダー。島田さん、ジョー、角屋さんが抑えられてるのに、俺が打てるわけないやんか・・・・・・あっ、今のストライクかっ・・・・・・・・


新月はあっという間に三振を取られてしまった。


「どうや新月、やっぱり逃げる球はきついか?」
ベンチに帰ると、角田監督がそう聞いてきた。
「そうですね・・・・・・相変わらずタイミングがとりづらいです・・・・・・」
「そうか。大会が終わったら、ちょっと対応策を考えなな。」
対応策?なんだろう?



今大会も初戦から勢いづいているバタ西打線の勢いが、ここで止められそうな気配がしている。
でも確か、夏のときはそれでも何とか勝ったよな・・・・・・まずは、中津川さん次第、ってところかな・・・・・・

 

 

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