流れ

 

「カキンッ!」「あっ!?」

軒峰高校の1番打者が放った打球は、センター島田さんの頭上を越えた。
ダイヤモンドでランナー二人が駆け抜ける・・・・・島田さんも懸命に追いつき、すばやく送球するが・・・・・ホームイン。
3回の裏、軒峰高校がついに2点を先制した。

なおもランナー二塁。

ここで、藤谷さんがマウンドへ駆け寄り、さらに内野手を集める。
「すいません・・・・・・俺がしょうもない守備してしもたせいで・・・・・・」
集まった選手のうち一番最初に口を開いたのは、ランナー一塁の状態から、落ち着いてさばけばダブルプレーにもできた打球をはじいてオールセーフにしてしまった新月だった。
「いや、その後ちょっと動揺してしまって球が荒れた俺にも責任がある。」
すかさず中津川さんがそうフォローをした。

この場合、どうみんなをまとめるべきかな・・・・・・
藤谷さんは、角田監督に3回戦のとき言われたことを思い出しながら考えていた。・・・・・・・・よし。

「今は責任を追求しても仕方ありません。反省は試合後にでもやりましょう。」
「・・・そうだな。藤谷は次の2番打者、どう動くと見る?」
セカンドの山江さんが尋ねた。
「そうですね・・・・・・相手にとって、このまま得点を重ねれば試合の流れをつかめるチャンスです。やはりここは堅実にバントしてくるでしょう。ですから、特にサードの南条君はより集中してください。」
「は、はい。」
思いがけず注意を促され、南条は少しもたつきながらも返事をした。

「さて、今日最初のピンチです。・・・・・・ここはひとつ「あれ」をやりましょう。」
「「あれ」か・・・・・・そういえばこの新チームになってからやってないな・・・・・・」
「そうですね。このチームに降りかかった最初の試練です。気合入れていきますよ!せーの・・・」

「「「「「Let's Go バタ西!オウッ!!」」」」」

5人の球児は、再び自分のポジションへ戻った。


・・・
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・・・


そうして気合を入れたものの、結局三回の裏、川端西高校はもう一点を加えられてしまった。
藤谷さんの予想通り、ノーアウト二塁から二番打者は送りバントを決めた。その後三番打者はきっちりと犠牲フライ。
しかし、ノーアウト二塁の状態からでは最小失点、といっても差し支えはないだろう。
とにかくまだ流れは相手に渡していないはずだ。何とか中津川さんを援護したい・・・・・・

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その3点は、かなり重いかもしれない。二巡目を迎えてもなお衰えない乾のピッチングに、そういう心配が漂い始めた。
とにかく高速スライダーが切れる。ストレートとの球速差はなんと一ケタ台だ。これでは、見極めは難しすぎる。
1,2,3番と続いた打線も無安打に抑えられてしまった。唯一南条が、大きなファールを見せはしたが・・・・・・


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中津川さんが、今ひとつ立ち直れない。
4回の裏、何とか無失点に抑えはしたが、一安打二四球と冷や汗もののピッチングだった。
このままではまずいと、浜辺さんが投球練習を始めた。投手が代わるようなことになる前に、何とか打たないと・・・・・・


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このまま、俺たちバタ西打線が終わると思うなよ・・・・・・強い決意を胸に秘め、角屋さんが打席に立っている。
乾は三球を投げ、カウントは1−2。
そして第四球目。ここは一球外すか・・・・・・いや、勝負するはずだ・・・・・・狙いを決め球の高速スライダーに絞ろう。

乾が右腕からボールを放った!・・・・・・・・・真ん中へ来た・・・・・・ここから外へ曲がって・・・・・・よし!

「カンッ!」

角屋さんは、外角への高速スライダーをきっちりセンターへはじき返した。打球は乾の頭の上を通り、センター前へ。

「よっしゃ!初ヒットやな!」
ベンチでは、角田監督がいつなく喜んでいる。悪くなりかけている流れを止められそうな一打に、安心したのだろう。
「さ、次は藤谷か・・・・・・あいつならなんとかしてくれるはずや・・・・・・」


角屋君がヒットを打った。シングルヒットではあるが、貴重なヒットだ。
彼は確かにやや外角が苦手ですが、技術は十分にあるんです。きちんと狙えば、対処できるだけの力は持ってるんですよ・・・
まだまだですね、坂登君。と、藤谷さんは右打席から軒峰の捕手を見た。

さあ、そこで僕は何を狙おうか・・・・・・打たれはしたものの、乾の主力である高速スライダーを使ってくることは間違いない。しかし、僕にあの球が打てるかどうかは正直言って自信がない・・・・・・やはりストレート中心に狙おう。


乾が藤谷さんに投げた第一球目。再び外角への高速スライダーだったが、ボール。なるほど。こういう見せ球もありか・・・
第二球目。内角低めのストレート。いいところに決まってストライク。
第三球目・・・のまえに、一球けん制をはさむ。さすがに坂登君はそのあたりをおろそかにはしませんね。
改めて第三球・・・・・・高目へのストレートか・・・・・・一応振ろう

「ブンッ」
「チッ」

球はまたもや変化し、バットの先に当たって後方に飛んでいった。ファール。うーん・・・本当に見極められないですね・・・

そして第四球目。・・・・・・・・・外角へのゆるいボール・・・・・・いける!
藤谷さんの最も得意とする球だ。無理やり打ちに行こうとせず、軸足でためてしなやかに振りに出る。

「キンッ!」

打球は1,2塁間をきれいに抜いていった。ライト前ヒット。

ノーアウト1、2塁。川端西高校のクリーンアップが、一気にチャンスを作り出した。
ここから流れを取り戻し、いや、こちらに流れを引き寄せないと・・・!


・・・
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・・・

しかし、乾−坂登のバッテリーはそう簡単にそれを許さなかった。
それまでから一転して、直球主体でコーナーを突くピッチングを繰り広げる。
乾は球威、制球ともによく、6番の林部さんは三振を奪われた。
それを見た角田監督は、7番の村岸さんにバントを命じた。逆点の可能性は下がるが、今は一点でも取り返すことが大事だ。

村岸さんは期待通りにバントを決め、2アウト2、3塁となった。だがここで、なんと軒峰は敬遠策を選んだ。

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「うーん・・・・・・なかなか勝利に貪欲やなぁ・・・・・・」
立ち上がってボールを受ける捕手を見て、角田監督はうめいた。
「新月!ちょっと!」
そして、ネクストバッターズサークルにいる新月を呼び寄せた。
「監督、代打ですか?」
新月はすでに察していた。
「すまんな。敬遠された後で見返してやりたいやろけど、ここはしゃあない・・・・・・交代や。」

そして角田監督は、新月に変えて打撃好調の左打者、具志堅を送った。


「新月、お疲れ。行ってくるわ。」
「ああ、しっかり打って来いや。」
二人は互いの手を空中で叩いた。バトンタッチ、といった感じだろうか。

そういえば大会前のスタメン発表の場で、二人はこのような会話を交わしていた。
「打てなかったら、代打してやるからな。」
「・・・・・・絶対、活躍したんねん」
だが今具志堅に、その言葉の通りになった、というような優越感はなく、新月にもまた、やられた、というような気持ちはない。

お互いに、川端西高校を勝利に導くという目的を、確かに共有しあっているのだった。


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・・・川端西高校一年生きっての強打者具志堅でも、新兵器を携えた乾を攻略することはできなかった。
結局高めのストレートで空振りを誘われ、三振に終わってしまった。

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2アウト満塁という大ピンチを見事切り抜けた軒峰は、結局最後までバタ西に勢いを渡さなかった。
川端西0−6軒峰。バタ西の秋季大会は、ベスト8という結果で幕を閉じた。

決して悪い成績ではない。不満を漏らすような位置ではない。
だが、これまでより落としてしまったことは事実だ。そしてその内容にも、いろいろな課題を残してしまっている。
なにより深刻なのが、投手の柱がいないこと。このままでは、甲子園への道のりは遠い・・・・・・

 

 

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