お年玉

 

__________________ 2005年元旦 南条の家__________________


ん・・・うーん・・・・・・よいしょ、と。
いつの間にやら寝ていたようだ。南条は何とか起き上がって、時計を見てみる。もう年は明けたらしい。
カーテンを開けてみると、まだ日は昇っていなかった。しかし空の様子を見てみると、どうやらもうすぐ日の出が訪れるようだ。初日の出、か。見るのはいったい何年ぶりかなぁ・・・

昨日は風呂で角田監督に指示された練習メニューのひとつ、「スミス式関節柔軟運動」とやらをやった後、そのまますぐに寝た。別に歌に興味はないから紅白歌合戦なんてものは見ない。格闘技とかもどうでもいい。

・・・そういえば、俺の趣味って何なのかな・・・・・うーん・・・・・よく考えると、基本的に俺の生活って野球やってるか寝てるかどっちかだよな・・・じゃあ趣味は野球?・・・・・いや、趣味とはちょっと違うかな。別にそんなに楽しんでやってるわけでもないしまあ・・・・・昔からやってるからなんとなく体が動くって感じかな・・・・・やっぱり趣味じゃないよな、これは。後ほかには・・・・・無いか。

「無趣味人間」か・・・・・俺の人生、これでいいのかな?

南条は元旦からなかなか深いことを考えていた。が、疲れてきたので途中でやめることにした。
太陽が静かに昇ってくる。新しい年の始まりだ。まあとりあえず、特につらいこともなく平穏に過ごせてるから、いいか。


__________________ 2005年元旦 川端西高校__________________


今年も俺は最速を目指す。絶対一番になったる。スピードこそ命、スピードこそわが人生や!
正月なのに、新月は相変わらず無駄に早く学校に来ていた。
さすがに元旦に練習に来てるやつはおらんやろ。それもなんと今の時刻は6時半。まだTVでは「背中渡り競争」すら始まっていない時間。ははは、最高のスタートダッシュやな。島田さん、土方さん、今年は覚悟しときいや・・・・・
そんなことを考えながら、新月は高校の周りをうろうろしていた。なぜすぐに入らないかというと・・・・・入り口が見当たらないのだ。

当たり前だ。元旦早朝から門を開け広げている学校なんてあるはずがない。いや、世界は広いからそういう学校は探せばあるかもしれないが、少なくともバタ西ではそういう前例はない。
そういうわけで新月は不法侵入できそうなポイントを探しながら歩き回っている。身の軽い新月のことだ、ポイントさえ見つければ十分入れるだろう・・・・・・

とその時、塀の中から何者かの声が聞こえてきた。
「おお!今年もすごいな。あの人普段はシブチンだけど出すときは容赦ないからな。」
「・・・容赦ない、って使い方違うだろ。たぶん。それにしてもこんな金があるとは・・・」
聞き覚えがある声だ。そう、因縁のあの二人。間違いない・・・・・

「島田さん、土方さん、何やってはるんですか!」
新月は悔しさをかみ殺して、塀の向こうで談笑する宿敵たちの名を呼んだ。
「・・・ん、その声は・・・」
「新月か!今年も三番乗りだな、おめでとう!」
くっ・・・それを言うか・・・・・・!?今年もこの二人は、そう簡単には勝たせてくれないようだ・・・・・・

「新月、そんなところでボーッとしてないで早く入ってこい!すごいものがあるんだ!」
コンクリート塀越しなので島田さんの顔は見えないが、うれしがっているのは大体想像がつく。しかし入ってこいといわれても・・・
「すんません!いま入り口を探してまして。」
「入り口!?そんなもんいらんだろ!適当に乗り越えて入ってこい!」
乗り越えて!?新月は驚愕ともにもう一度塀を見上げた。3メートル近くあるんちゃうんか、これ!?塀に手をかけられそうなところは・・・・・まあないことはないけどな・・・・・それにしてもなんちゅう身のこなしや・・・・・

「・・・仕方ない、俺が手伝ってやるよ。」
見上げていた視線の先に、人間の体が現れた。土方さんか・・・・・あれだけでかい人が乗り越えられるのはわかるけど・・・・・
「・・・ほら、捕まれ。といってもお前の体を全部持ち上げるのは無理だからな。自分でも適当に登る努力はしろよ。」
土方さんが長い右腕を差し出してくる。
「あ、ありがとうございます。」
お言葉に甘えて、新月はその腕をつかんだ。利き腕ではなかったが、土方さんは軽く新月を引っ張り上げた。



「ふぅ・・・で、島田さん、「すごいもの」って何なんですかいな?」
「まあとにかくついてこい。」

言われたとおり、新月は二人の後について歩いていく。二人は野球部のベンチのほうへ向かっていった。そして中へ。
「ほら、これだ」
「・・・おおっ!」
島田さんの指差した先には、汚れひとつないバーベルやアレイなどがたくさんそろっていた。ダンボールに包装されていたようで、まだ開けられていないものもたくさんある。

「こんだけ一気に買ったら結構高こつくんじゃないですか?」
しばし驚いた後、新月はこんな第一声を発した。
「いきなりそこからか・・・・・・まあいいや、とりあえず全部開けようぜ。」


しばらく、開封作業が続いた。


「・・・ん、これは?」
土方さんが開けたダンボールから、一枚のメモが出てきた。なにやら字が書いてある。
「・・・監督の字だな、多分。」
「どれどれ、ちょっと貸して。」
島田さんが、やや背を伸ばして土方さんの手からメモを奪い取った。

「えーと、『新年明けましておめでとう。早々なんなんやけど、はっきり言ってお前らには筋力が足りん!そういうわけで今年のお年玉はこれ。練習方法の紙もついてるはずやから各自しっかり鍛えろよ。 角田幸一  P,S, 傷ついたら弁償せえよ』」
変なイントネーションで、島田さんがメモを読み上げた。

「お年玉???」
新月は思わず疑問を口に出してしまった。
「やっぱり、最初は変だと思うだろ。俺もそうだったよ。」
島田さんはメモを元に戻し、説明し始めた。

「お年玉って言うのは監督就任以来から続いてる恒例行事みたいなもんでな。まあ要するに、監督がなにかしらの新しい練習設備をそろえてくれるんだ。去年は、あれだったよ。」
島田さんが向いた方向に、土方さんと新月が視線を向ける。
その先には、質素ながらもきちんと屋根がついていて、プレートもマウンドもそろっているブルペンがあった。
「・・・へぇ、あれはお年玉だったのか。」
「そうそう。監督はああ見えて結構シャイだから表だってこういうことをやりだがらないんだけど・・・やっぱちゃんと感謝しなきゃな。」
島田さんはそういいながらアレイの一つを持ち上げ、しみじみと見つめた。


「ああ、しかし今日は朝も早かったし疲れたな・・・まあいつもよりは遅いけど。」
島田さんは少し伸びて、気のないあくびをした。
「そういえば二人は何時ぐらいに来はったんですか?」
「ん、俺らはそうだな・・・6時20分ぐらいだったかな。」
しまった・・・・・あと20分ぐらい早ければ勝てたのに・・・・・・・

「ま、そういうわけで俺はベンチで寝とくよ。二人はどうする?」
・・・
って、寝るんかい!早く来る意味あらへんがな、全然・・・・・・・
「・・・俺はその辺を走ってくる。」
土方さんもややあきれているようだ。島田さんへの目線が冷たい。
「え、ああじゃあ俺も、走ってきますわ。」
先輩を、特に土方さんを差し置いて寝るのはなんとなく気が引けるもんな・・・・・


そして二人は、とりあえず裏山へ向けて新年ランニングを開始した。




「土方さん」
静かな並木道をゆったり走りながら、新月は尋ねた。
「・・・ん?どうした?」
「何でお二人は朝いっつもこんなに早いんですか?」
「・・・そうだな・・・まあ俺はできるだけ走ってブランク埋めないと駄目だしな・・・昭は・・・「スピードこそわが人生」、とか言ってたな。」



・・・島田さん・・・・・・

 

 

 

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