燃える男、離れ業

 

とにもかくにも、打順が決まった。一応もう一度、ポジションも併せて表記しておこう。

紅組

1 島田 8
2 中津川 4
3 土方 1
4 角屋 9
5 藤谷 2
6 山江 6
7 村岸 3
8 林部 7
9 今尾 5

白組

1 新月 6
2 刈田 4
3 柴島 9
4 具志堅 3
5 南条 1
6 後藤 2
7 神部 8
8 河野 7
9 清川 5

選手たちは、グラウンドに整列した。しかし、その時2チームの間に立っているはずの審判の姿が・・・ない。
「おい、審判!早よせんかい!」
角田監督はベンチのほうに向かって、いらだたしそうに叫んだ。それを、角屋さんがあわてて止めようとした。
「か、監督・・・・・・審判に向かってそんな口調で・・・・・・」
「ん?大丈夫や。別に問題はない。・・・・・・ああそういえば、まだお前らにはまだ言うてなかったな。昨日一応手配しようとしたんやけど、ちゃんとした審判を呼ばれんかってな・・・・・・」
・・・そりゃそうだ。いきなり紅白戦を組んだので明日来て下さい、なんて無茶な頼みに応じてくれるわけがない・・・・・・じゃあ、誰が審判をやるんだ?
するとベンチからは、意外な人物がマスクを右手に持ちながら出てきた。
「すいません!審判のレガースつけるの初めてなんで手間取ってしまって・・・・・・」
「「浅越さん!?」」

「・・・まあ、この流れからして、そんな感じはしてましたけどね・・・・・・」
皆が驚く中、藤谷さんは半ばあきらめたようにつぶやいた。


・・・
・・・
・・・


「プレイボーッ!」

浅越さんの声が高らかに・・・というか妙にかん高く、グラウンドにこだました。やっぱり緊張してるな・・・・・・
先攻は白組、つまり1年チーム。
「よっしゃっ!バタ西のチャンスメーカー新月のデビュー戦やっ!いくでぇ!」
・・・そして右打席に入ったトップバッターはこの男だ。いつもながらやかましい。
「何っ!?チャンスメーカーは俺だっ!!その位置は今日限りだからなっ!」
よせばいいのに、紅組のセンターが思いっきりそう叫んだ。頼むから、カメラの回ってる甲子園でこんなことやらないでくれよ・・・


赤組の投手、土方さんがノーワインドアップからひざをあご近くまで上げる・・・・・・そして少し間を取り・・・一気に力を開放した。

「シャァァーー・・・・・・
ドンッ!」
「ストライッ!」

ど真ん中に直球が投げ込まれた。
積極性が売りのはずの新月が、全く動けなかった。

「・・・こんなに速かったっけ・・・・・・」
「土方君にとって、今日は復帰以来初の実戦です。ちょっと力が入ってますが・・・・・・なかなかいい球が来ましたね。・・・彼の背番号1は確定だと思っている人もいるかもしれませんが、まだまだ戦いは続いているんです。・・・練習の時とは、全く違う投手だと思ったほうがいいですよ。」
思わず驚きを口にしてしまった新月に対して、藤谷さんはマスク越しにそう語った。
そうか・・・今までの土方さんとは全くのピッチャーか・・・・・・ふふふ・・・きたでぇ・・・余計に燃えてきたでぇ!

土方さんが第二球を投じた・・・・・・・・・・新月が得意とする目に近いところ、インハイだ!
「よしっ!」
やや甘めに入った直球を芯で捕らえた・・・と思ったが・・・・・・

「カッ・・・!」

・・・・・・ボールはバットの下側に当たり、地面に直進した。・・・・・・・・しかし新月は猛然と一塁へ向かう・・・・・・・打球は大きくはねている。面白いコースだ。・・・・・・・サードの今尾さんが必死のダッシュを見せ・・・・・・・取った!そしてすばやく一塁に投げる!
「うおぉぉぉ!」 「・・・・・・バシッ!」
本能が新月の体を突き動かした。ベースに頭から鋭く滑り込む。・・・・・・微妙なタイミング、判定は・・・・・・

「セーフ!」

急遽一塁塁審についていた3年の辺山さんが、両手を大きく広げた。
新月はすばやく立ち上がり、こぶしを天に勢いよく突き出した。


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「がんばるなぁ、新月。」
「燃える男、か。たかが紅白戦でよくやるよな。」
紅組のベンチから試合を見守っていた二年生2人が、感嘆してそういった。特に意識せず出た言葉だったが、隣に座っていた角田監督はそれを見逃さなかった。
「たかが?・・・そんなん言うとったら、いつまでたってもレギュラーにはなられへんぞ。」
「・・・あっ。すみません・・・・・・」
「・・・必死にやったら結果が出る、とは限らんかも知らん。でもな、必死にやらずに結果が出ることは有り得んのや。・・・よう覚えとけよ。」
そう言った後角田監督は、手元のノートの新月の欄に、チェックを三つ入れた。


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形は良くないが、とりあえず塁に出た。しかし今の時点の新月では、打撃が完成してない分こういう出かたが多くなってくるだろう。

二番打者は刈田。打席に入ったとたん、バントの構えを見せた。
やっぱりここはきっちりと・・・・・・確認のため一塁を見ると、新月がこちらをにらみつけている。何かを伝えたいような雰囲気が・・・・・・そうか。
刈田はなんとなく新月の意思を読み取り・・・再びバントの構えに入った。

土方さんが足を上げ・・・・・・とここで、新月が走った!しかしかまわず刈田はバントの構えを続け・・・・・・・・・いや、引いた!?
藤谷さんはボールをミットから取り出し、すばやく送球した。藤谷さんの肩はそこまで強くないが、捕球体制に入るのが非常に速い。・・・・・・しかし今回はバントを予想していた分動きが遅れた・・・・・・新月は、無事二塁ベースに滑り込んだ。


「おお!いい連携だな!すごいすごい。」
ベンチでじっと試合を見守っていた木田監督は、ここで立ち上がって喜んだ。
「あの、木田さん・・・」
南条が、何かを尋ねようとした。
「南条、今は木田監督、だ。」
「・・・あ、そうでした。・・・・・・じゃなくて、何でサイン出さないんですか?」
「・・・しまった、忘れてた。」
やっぱり・・・・・・何条は再び呆れかえ・・・ようとしたが・・・

「・・・って言うのはもちろん冗談だぞ。・・・まああれだ、俺のサインプレーのテンポを覚えたところで、実戦では役に立たないしな。むしろ、いざ角田監督のサインを受けるときに混乱するかもしれない。それに、あいつらならフリーでも十分やってくれそうだったしな。」
・・・本当かなぁ・・・・・・にわかには信じがたかったが、後付にせよ何にせよ言いたいことは良くわかる。
さあ、初回からいきなり得点圏にランナーが進んだ。一気に打ち崩して勢いをつけたいところだ。


・・・
・・・
・・・


新月を三塁に進めることは、出来なかった。刈田は再びバントを試みたが・・・・・・土方さんが投げ込む球威抜群のムービングファストにファールを重ねられ、あえなく失敗。
三番の柴島は落差のあるフォークを交えられ、バットに当てることすら出来なかった。
そして白組の四番に見事指名された具志堅は・・・・・・高めのストレートを力強くはじき返した・・・に見えたが、失速して平凡なセンターフライに終わってしまった。3アウトチェンジ。


・・・
・・・
・・・


「おっかしいな・・・・・・結構捕らえたはずだったんだけどな・・・・・・」
具志堅はしきりに首をかしげながら、ベンチにファーストミットを取りに帰ってきた。
「いや、ちょっと先っぽだったかな。」
刈田はそう指摘した。「先っぽ」、というのは野球の実況中継にも良く使われる表現だが、バットの芯よりも先端側でボールを捉えてしまった状態のことを指す。この場合打った瞬間はかなりいい当たりに見えるのだが、途中で打球は勢いを失ってしまう。
「ああ。それはわかっとるんやけど・・・・・・まだまだあかんなぁ、俺・・・・・・」
とは言ったものの、まだ完全には納得していないという表情で、具志堅はファーストの守備へと向かった。


・・・
・・・
・・・


南条がマウンド上での投球練習を終えると、キャッチャーの後藤が駆け寄ってきた。
「島田さんへの初球、わかってるな。」
「うん。大丈夫。」
「よし。それだけだ。頑張れよ。」
後藤は南条の右肩をポン、と叩いて戻っていった。


「プレイッ!」

少し審判に慣れ始めてきた浅越さんの声によって、一回の裏が始まった。
一番はこちらが本当のバタ西のチャンスメーカー、島田さんだ。
「新月!これから俺が本当の「一番打者」を見せてやるから目ぇ話すなよ!」
「どうせまた三振するんやろ!よう見といたるわ!」
もはや敬語も何もあったもんじゃない。
「南条、抑えなあとでしばくぞ!」
・・・・・・全く勘弁してくれよ・・・・・・

南条は少し気が滅入ったが、予定通りの球種を投げ込む。
「シューーーーーーー・・・・・・・・・・・ククッ」
「・・・うおっ!」
よし、かかった!外角のカーブを、島田さんは崩れた体制で打ちにいった。思惑通りだ。

が、次の瞬間、島田さんは一年バッテリーの思惑を吹っ飛ばす離れ業を見せた。

「ハッ!!」
「カコッ!!」

鈍いが、強い音がした。
外角のボール球は、島田さんの剛力によって無理やりライト方向へ引っ張られた・・・・・・まさか・・・・・・!

 

 

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