太目の男、速い仕事

 

____________________翌日 川端西高校___________________


ややオープン気味にスタンスを構えたノッカーが、右打席から鋭い打球を放つ。打球は三遊間へ・・・いや、サードが取った。そしてすばやく二塁へ送球・・・・・・いい肩してるなぁ・・・それを二塁手が捕球した、と思った瞬間、一塁にすばやく球が送られた。完璧な併殺プレイ。
「さすが高校レベル・・・」
「硬式は球足速いよな・・・・・・」
八重村と板橋は、初めてじっくり見るバタ西の野球に見入っていた。
「うーん・・・・・・・よく見えないぞ。どれがエースなんだ・・・?」
一方で貴史は、ブルペンの方ばかりを見ていた。八重村に取り付けてもらった対戦の相手をチェックしようという目論見らしい。が、質素だがきちんとあるブルペンの囲いにさえぎられ、その目論見はうまくいっていない。


三人がグラウンドを覗き込んでいると、後ろから誰かが声をかけてきた。
「お、諭、もう来てたか!」
「・・・あ、海兄ィ!」
・・・・・・八重村は昨日、立場としては先輩の具志堅をそう呼ぶのを自重しようとしたのだが・・・本人がいきなり現れると、ついいつもの調子で反応してしまった。
「おいおい・・・普段は別にそれでええけど・・・ここではちょっと、な。」
「あ、すいません・・・」

「でかいなぁ・・・・・・」
中三トリオの中から、こんな声が聞こえた。声の主は貴史だった。その感慨は、自然と口をついて出たのだった。
「俺か?一応180以上はあるからな。・・・言うても君もなかなか背、高いやん。名前はなんていうんだ?ついでに隣の君も。」
「金田貴史です。」
「板橋貴一です。よろしくお願いします。」
「なるほどな。よろしく。・・・そういえば君らの事は、諭から何回か聞いたことがあるわ。」
「え、そうなんですか。」
「おう。えーとな・・・・・・確か金田は打撃がやたらとうまくて、板橋は小技が達者で・・・」

具志堅が八重村による二人の評価を思い出そうとしていたそのとき、大きな足音とともにこちらに駆け寄ってきた者がいた。かなり太目のその男は、まず三人のところへ謝りに行った。

「・・・・・・すまん。遅れてしまった・・・」
「おお、張。来てくれたのか。」
「いま何時だ・・・なんだ。たったの3分遅れじゃんか。気にするなよ。」
「・・・3分だろうが30分だろうが遅れは遅れ。約束を破ったんだから謝るのは当然。改めてすまんな。」
この太目の中学生は、なかなか律儀なやつのようだ。というか、律儀過ぎるやろ、これ・・・・・・まあええか。

「なあ諭、これもうちの野球部志望なん?ようけ集めてくれたな。」
八重村がその質問に答えようとすると、太目の男が急に競り出てきた。
「いえ、自分は柔道部に入る予定っス。ここの高校の鷲田さんとは昔からの知り合いで、憧れの柔道選手っス。・・・でも野球は好きなんで、今日は見学させてもらうっス。」
・・・出たー。ついに出た、語尾が「っス」のキャラクター・・・・・・あ、これはこっちの話だから気にしないように。

「そうそう。こいつはチェスターズのチームメイトで、今日は俺たちが無理に頼んでここにきてもらったんです。名前はチャン・ターフー。」
初対面ながらまったく縮こまる様子のない貴史が、そう補足した。
「・・・チャン?さっきもそんなこと言うてたけど・・・中国人か?」
「いえ、おとっつぁんの出身地はそうですけど、自分は日本生まれで国籍も日本っス。でも、名前は中国の名前を受け継いでるっス。」
「へぇー・・・・・・漢字はどう書くんだ?」
「はい。チャンは張本の張、ターフーは大福、っス。」
・・・・・・うーむ。なんかこいつのしゃべり方、違和感が消えないなぁ・・・

「諭、今日見学するのはこの4人だけ、ってことでええんやな。」
「うーん・・・・・・まあそうだね。4人ってことで。」
「何でちょっと考えたんだ、今?・・・まあええわ。というわけで皆さんには今日、バタ西野球部に一日体験入部してもらいます。」
・・・体験入部?・・・あ、そうだったんだ。・・・・・・八重村以外、そのことを正確には聞かされていなかった。

「っとその前に・・・・・・これをプレゼントするように、と監督が。」
そういうと、具志堅は足元に運んできていた箱からなにやら取り出した。
「・・・リストバンド?にしては細いですね。」
「うん。チタン製なんだけどな。何ていうんだろな、これ?・・・うちの部員はみんなこれをつけとるんやな。」
「・・・『Let's Go バタ西!日本の頂点へ!』か・・・」
板橋が、チタンバンドに金色の糸で刺繍されている文字を見てそうつぶやいた。
「え、そんなん書いてた?どれどれ、見してみ・・・・・・・・・・ほんまや。変わっとる。俺らのときは、『目指すは甲子園や!』、やってんけどな。」
甲子園出場、という目標はもう果たしたのでそうなったのだろう。しかし監督、仕事が速いな・・・・・・


四人はもらったチタンバンドを早速腕にはめた。ただ一人、張にとっては、ややサイズが小さかったようだが・・・・・・
「さて、プレゼントも終わったし、そろそろ行くか!」
「「「「はい!」」」」
具志堅に連れられ、中学生四人はグラウンドへ向かっていった。



「張、どうだ?すごいだろ、ここ?・・・結構野球部のほうに気持ち傾いてきたんじゃないの?」
グラウンドへ向かう途中、八重村は張にそう尋ねてみた。
「いやいや。俺はやっぱり柔道よ。鷲田さんと共に関東を制覇する。」

・・・張の決意は固いようだ。もともと頑固なやつだしな。鷲田さんに対する尊敬も並々ではなさそうだ・・・・・・しかし、こいつはみすみす野球をやめるにはもったいないセンスを持ってるからな・・・・・・張をどれだけ動かせるか、腕の見せ所ですよ、先輩方。・・・・・・ついでに、道岡も動かしたいな。それ相応の投手がいるかどうか・・・いや、きっといるはずだ。
八重村は期待を胸に、具志堅について歩いていった。

 

 

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