百花繚乱

 

この物語の主人公である川端西高校の球児たちは、大会第10日目にして甲子園を後にした。
だがもちろん、甲子園ではその後もまだまだ熱闘が繰り広げられた。
この章の結びとして、その様子を焦点をかいつまんでお伝えしていこう。


準々決勝の戦いは、10日目の第二戦は京都・七条高校が登場した。
バタ西の選手たちの中にも、全国レベルの戦いを少しでも多く見ようと、戦いの疲れと敗戦の悔しさを押し殺し、その試合をスタンドで観戦した者たちがいた。

やはり大河内はケタ違いだった。
とにかく速い。
そして配球のコンビネーションも完璧。

相手打者は、その威力にまったくついていけてない様子だった。
もし仮に樟葉丘高校を倒せたとしても、次はこの投手と戦わなければいけなかった。
そう考えると、部員たちは改めて、自分たちが越えられなかったとてつもなく高い壁に目がくらんだ。
七条高校の打線はそう強力ではなかったが、これまた一年生の四番打者・柴を中心に確実に得点をもぎ取っていく攻撃。大河内の圧倒的なピッチングがあれば、それだけでも勝利を収めるには十分すぎた。

こうして、大会10日目は終了した。


大会11日目。
一試合目は優勝候補の一角、福岡の志道館高校が順調に準決勝進出。
そして二試合目は、西東京の名門昭成高校と、まだチームとしては新参ながら、勢いよくここまで勝ちあがってきた神奈川の相模信和高校が激突した。
昭成は機動力を使った伝統の野球で、相模信和は一年生キャッチャーの津野、一年生エースの枚岡、そしてもう一人の二年生投手というバッテリーを中心に、堅く守って粘り強く戦っていく野球で、それぞれ死力を尽くした。

そして結果は、4−2で相模信和高校の勝利。
緊迫の競り合いを制して、準決勝に進出した。


大会12日目。
この日は準決勝の二試合が行われた。
一試合目は樟葉丘高校と七条高校の関西勢対決。

樟葉丘高校は、戦う前からかなり苦しい状況に追い込まれていた。
エース間野が、登板を危ぶまれていたのだ。その原因は、この二日前に受けたデットボール。幸い大きな怪我にはなっていなかったが、それでも時速130キロ以上で向かってくる硬球をみぞおち辺りに受けた体が、完全に無傷でいられるはずもない。
体の心まで突き刺すような打撲に苦しみながらも、間野はマウンドに上がることを志願した。

そして樟葉丘の監督も、ここまでやってきたんだから、とその願いを許した。
冷徹になりきれなかったこの采配によって、樟葉丘は結果的に、自分の首を絞めてしまった。
ピッチングには、全身の微妙なバランスと、強靭なバネが要求される。ただでさえ連投で疲れている体に、傷も加わっていては、球威が著しく落ちるのは当然だ。
間野は打ち込まれ、試合の途中でマウンドを降りた。
その後を受けた楠木の球も、川端西高校戦ほどには通用しなかった。

結局0−7と言う大きなスコア差で、七条高校が決勝進出を決めたのであった。

二試合目は志道館高校対相模信和高校。
相模信和は先発に二年生投手を立て、枚岡の登板機会はなかった。
一方、ここまですべてのイニングを一人で投げきっていた志道館のエース大口は、さすがに疲れを隠せなかった。

結局2−5で、相模信和高校の決勝進出が決まり、大会12日目が終わった。



そして大会最終日、いよいよ紫紺の旗の行方が決まる決勝戦。
七条高校と相模信和高校のこの対決は、人々の記憶にのちのちまで残ることとなる。

七条高校の先発投手は背番号1の大河内臥龍。
相模信和高校の先発投手はこれまた背番号1の枚岡徴。

大河内が豪速球を内角に休みなく投げ込めば、枚岡が浮き上がるストレートを低めに高めに鋭く決める。

大河内がフォークとスライダーのコンビネーションで空振りを奪えば、負けじと枚岡が抜群の高速スライダーで打者を寄せ付けない。

息の詰まる投げ合い。築かれる三振の山。

とても高校一年生のものとは思えない球速表示の争いは、ついに大河内の右腕によって大台の時速150kmがたたき出されるまでに至った。
スタンドの前の観客はもちろん、テレビの前のファン、球速計測に携わっていた人々、そしてチームメイトや監督までもがその目を一瞬疑った。だが、それは紛れもない現実だった。
そしてこれらの人々は皆、これから一年半あまりの甲子園の歴史が、この二人によってあやなされていくことを、強く予感した。


これだけの対戦が見られれば、もう勝敗などどうでもいいとさえ思う観衆も大勢いた。
だが、戦いは、どちらかが栄冠を手にするまで決して終わらない。

そして、最後に笑顔を勝ち取ったのは、天駆ける龍を擁する七条高校のナインであった。
スコアは1−0。

10回表に七条の四番柴が放ったレフトポール直撃のホームランが、この試合を決定する一打となった。


さまざまな選手たちの百花繚乱に彩られた、第77回選抜高校野球大会は、こうして幕を閉じた。

野球と言う球技に己を賭ける男たちの長い戦いは、ここからまだまだ続いていく。




第四章 終わり

 

 

 

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