メンバー発表

 

______________7月2日___________

大倉さんはさっきからため息をつきながらピッチングマシーン相手に打撃練習をしている。順番を待っていた福山さんがいつもと違う大倉さんに気づいて
「どうした、大倉?何か悩み事でも?」
大倉さんは、その言葉を聞いて
「ああ、今日の発表が・・・少し心配で・・・」
「心配?お前なら確実にレギュラーだろう」
「そう思うだろ、だがな、谷津田が入ったおかげで危ういんだよ」
「谷津田?ポジションは重なるが大丈夫だろ」
「さあ、ともかく心配で心配で・・・」
「まあ、気にするな。お前なら大丈夫だ」
「そうか、じゃあ、おまえの言葉を信じて運に身を任せよう」
大倉さんはそういって重い足取りで去っていった。

野球部グラウンドの真ん中に全部員60名余が集められ大会メンバー発表を待っていた。中には期待を膨らませる者、絶望的な顔をする者、余裕な表情で待つものと様々だ。長村はその中でどの表情も表さず直立不動の体勢でじっと待っていた。隣に居た越川は
「長村、お前緊張しないのか?」
と不思議そうに訊いた。175cmの長村は越川を少し顔を下に向け
「いや、別に緊張はしないな。選ばれなかったらそれはそれで結果として受け止めなくてはならんし、落ちたとしても実力が足らなかっただけだから秋季大会へ照準を合わせてまた努力すればいいとしか思ってないからな」
聞き終わった越川は唖然とした。越川は何か言いたそうにしたが部室から誰かが来た。全員は緊張の空気に包まれたが来たのは監督ではなく青川だった。緊張の空気は一瞬、解かれたが青川はそんな空気を無視して

「え〜と、じゃあ、大会メンバーの発表からしますか」

と言った途端、全部員50名余に緊張というより驚きが大きかった。驚きの声があがってる中、列の一角から質問の声があがった。

「何で監督からではなくマネージャの君から発表されるのか理解できない」
と言った。青川は冷静に
「監督が余儀ない用事で東京まで行ってるので私から発表するように言われましたので」
と言った。質問した部員は納得したのか何も言わなかった。青川は一枚の紙を取り出した。長村はあの紙一枚で運命が決まると思うと複雑な気持になった。
「じゃあ、背番号を発表します

1番 長村 投手
2番 松山 捕手
3番 大倉 一塁手
4番 吉原 二塁手
5番 大町 三塁手
6番 原田 遊撃手 
7番 安部 外野手
8番 越川 外野手 
9番 福山 外野手
10番 郡川 捕手
11番 伊達 投手
12番 重川 内野手
13番 唐澤 内野手
14番 矢田 投手
16番 根田 外野手
17番 志田 外野手
18番 井田 内野手

以上です」
と言い終わると選ばれたものは表情をなるべく隠した。選ばれなかったものへの配慮と言うか黙ってグラウンドを後にした。しかし、校舎を出ると気が狂ったみたいに喜んだ。対照的に選ばれなかった大多数の部員は暗い表情でグラウンドを後にした。華々しい活躍の裏にこれが現実だと言うことを選ばれなかった一年部員は屈辱とともに学んだ。

「お〜い、長村、バスに乗らないのか?もう出るぞ」
伊達がバス停から呼んだが長村は
「ちょっと寄る所があるんでいいわ」
と言った。松山が慌ててバスに乗ろうと走ってるのを長村は見て
「松山!ちょっと来てくれ」
と呼んだ。松山は迷惑そうな顔をして
「何だ?用事か?」
と訊いた。長村は
「ちょっとおまえにきてもらいとこがある」
「どこだ?」
「高槻のある人の家にきてほしい」
「ある人?誰だ?」
「俺の親戚の人でおまえに是非紹介しておきたい人だ」
というと松山は悩んだが
「解った、行こう。行く代わりに用事は手っ取り早く済ましてくれよ」
「ああ、時間はそんなに取らせない」
長村はそう言い、事前に話してある長村正がどういう反応を示すかが気になった。

 

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