古巣との対決@

 

電光掲示板に先発オーダーの名前が映し出された。

摂津大附

1番 矢田 8
2番 大井川 4
3番 山田 6
4番 谷口 2
5番 栗野 3
6番 嵯峨 1
7番 石村 5
8番 若田部 7
9番 大江 9

関大体浪速商

1番 越川 8
2番 大倉 3
3番 福山 9
4番 大町 5
5番 吉原 4
6番 松山 2
7番 郡川 7
8番 長村 1
9番 原田 6

摂津大附はいつもと変わらないメンバー。浪速商は安部さんと郡川が変わった程度だ。

「プレイボーッ!」

主審が叫ぶと試合が始まった。先攻は浪速商、1番越川からだ。

嵯峨さんが振りかぶった。そして、腕を振り下ろした。

「シューーーーグォォ!」
松山も見たことのあるジャイロボールが内角低目をめがけて弾丸のように向かってくる。

「ストライーク!」

越川はまったく反応できなかった。嵯峨さんは薄笑いを浮かべ越川に追い討ちをかけるように振りかぶり腕を振り下ろした。腕から離れた球は真ん中低目へと向かってくる。越川は目で捉えバットを振った。捉えた!と思った瞬間、白球は上から圧力をかけられるように急にそれも球速がほとんど変わらずに沈んだ。越川はそのままバットを振りもちろんストライク。越川は顔をうな垂れたままベンチに戻ってきた。

「どうだった越川?あの人のジャイロボールは?」
長村が暗い表情の越川に問いかけた。越川はベンチに座ると暗い表情のまま
「凄いと言うより怖いだな。まるで銃弾が向かってきてるようだった」

「銃弾・・・・?」

「ああ、まさに銃弾だったね。それも軍用級の」

「ほう、それほどまで恐ろしいジャイロボールになっていたか」
長村はそういい立ち上がった。すでに大倉さんは三振、福山さんもツーストライクと追い込まれ見事に三振。浪速商業は1回無得点。

「シューーーーバシッ」

「シューーーーバチーンッ」
長村は投球練習を終えると黒色の浪速商業の帽子のつばに手をかけた。長村が気づくと松山がボールを持ってきて無言で渡した。松山がホームへ戻ろうと踵を返すと長村が
「松山、いよいよだな」

「ああ、相当な覚悟持たんとあかんな

松山が珍しく関西弁で返してきた。

「1番は矢田か、手強いな」

「でもな、あのくそ理事長を見返すためにも勝たなくちゃな」

「ああ、見てろくそ理事長!!鍋島が入ってきたからかどうか知らんが俺をやめさせたことを後悔させたるは!」

長村が珍しくグラウンドの真ん中で叫んだ。今まで見たことのない長村の行動に浪速商業ナインは驚きを隠せないようだ。

長村はロージンバッグの粉を付け、ゆっくりと足を高く上げるフォームで振りかぶり細い右腕からにらみつけるように矢田に向かってボールを放した。

「シューーーズドォッ!」

その瞬間、まるで、試合が停止ボタンで止められた状態になった。スピードガン表示が出るまでの間、藤井寺球場は静まり返った。

「150km/h]

[ス、ストライーッ!」
「ワァァァァァー!!」

「ひゃ、150km・・・」
松山も矢田も絶句した。ここ最近、確かにスピードは速くなっていたが松山の知る限りでは145km/hが最速のはず。5km/hも速くするとは・・・矢田に限っては130km/h時代の長村しか知らないから相当驚いただろう。長村は容赦なく矢田に向かって2球目を投げた。

「シューーーーズドォン!」
148km、それもジャイロボールで来られると体感速度は計り知れない。松山はそう思いながらカーブのサインを送った。
「シューーーーグググッ!」
外角低目に向かって曲がっていくカーブを矢田はミートを心がけて振ったが届くはずもなくストライク。矢田は三振。

矢田はベンチに戻る途中のネクストで素振りをしている大井川に

「奴のカーブは昔とさほど変わっていない、問題はストレートだ。ストレートを狙うな。せいぜい内野ゴロだ。お前はなるべく変化球を多く出させろ」
「へいへい、了解」
大井川はそう応えるとバッターボックスに入った。バッターボックスに入ると松山が話し掛けてきた。

「いやいや、お前をいつの間に打率7割5分6厘なんて記録するようになったんだ。昔は守備でレギュラーを勝ち取ってた状態なのに」
と言うと大井川はむっとし
「そういうお前も守備がそんなに上手くなかったのに捕手なんかやってるんだ。いつもボールを取り損ねたじゃねえか」
「それはそれ、今は今、まあ、お前も打率を上げれたもんだ」
そういってももう大井川は反応しなかった。松山も何も言わずカーブのサインを出した。
長村が足を高く上げるフォームから腕をひねりながら投げた。

「シューーーーグググッ!」
鋭く変化するカーブに対して大井川は執念で当てに行った。何とか当たったもののファール。

(いまの・・・どう考えても打ちに行くような球じゃなよな。ということはカーブは打たれやすいという印象を植え付けるためか?それにしても完全なボール球を打ちにいくか普通?そういえば矢田の「1番の仕事とはもち球を出せること」とか言ってたな。そうか!)

松山は長村にストレートを内角に投げるようサインを出した。
そのサインに長村は目を疑った。どう考えても矢田の2割1部5厘とは比べ物にならないほどの打率の7割5部6厘の大井川に投げるのか!長村は首を振ったが松山はもう一度ストレートのサインを出した。長村はあきらめて指示どおりに内角めがけてストレートを叩き込んだ。大井川は少し反応したがなぜかボールをカットした。

松山は自分の推論を確信へと変えた。

松山はまた内角へストレートを要求した。長村には解りかねた。さっきは理由はわからないが逃げるように打ってきたが今度は間違いなく前へ飛ばす。そう思ったがここは松山に従うのだと自分に言い聞かせ指示どうりに投げた。
「シューーーーグォォ!」
大井川は読みを外された。次はスライダーが来ると予想していたがまたストレート。

「カキィッ!」
鈍い音が鳴ったかと思うと松山がマスクを外して構えた。スポッとミットに入ると審判がアウトを宣言した。続く山田さんに対しては徹底的に内角をストレートで突きセカンドゴロに討ち取った。

ベンチに戻った長村は打席に向かう大町さんを呼び止めて
「大町さん、ちょっと・・・」
「なんだ?」
「実はあのピッチャー、ストレートの抜け球が大体、1イニングに1、2球あり、失点はほとんどがそれです」
「本当か!じゃあ、そうとしたらそろそろ来るんだな抜け球が!」
と言い、バッターボックスに向かった。

「何を言ってきたんだ?」
伊達がベンチで腕組をしながら長村に訊いた。長村は
「いや・・・ちょっと助言を・・・」
「助言?」
「抜け球が多いってことだ」
「お前は去年まであそこにいたんだろ?じゃあ、なぜもっと前、越川に話しておかなかったんだ」
「なんというかな・・・活躍してもらいたかったんだろうな。1回表の気持ちが」
「活躍?じゃあ、うちが困るじゃないか。あの人が3年だからか?それならうちにはもっと多くの3年の方が居るぞ」
「ジャイロボールを退部させられるちょっと前に教えてもらったんだ。だからその・・・」
「もういい、大体の理由はわかった。だが、もう点が入ると思ったら大間違いだ」
といい、カウントを指差した。
「ツーストライク、ノーボール?そんな馬鹿な抜け球があったはずだ!」
長村は信じられないように言った。手先の感覚が狂うと投げれないジャイロボールは長村でさえ抜け球が1ニングに1球は出るが嵯峨さんはまだ1球も出していない。そうこう考えているうちにスライダーで大町さんが三振。吉原さんが打席に向かった。

バッターボックスの土をならすと吉原さんは左打席に立って深呼吸をしてから構えた。
嵯峨か・・・甲子園での記録奪三振20、失点3、投球イニング16回2/3か・・・なかなかのものだ。吉原さんは振りかぶった嵯峨さんを見、ぎょろりとした目で投げたボールに照準を合わせた。
「シューーーーグォォ!」
襲い来る速球に向かって金属バットを振りぬいた。
「カキンッ!」
その瞬間、白球が宙を舞った。その後を矢田が追う。しかし、虚しくも打球は力がなくなりグラブに収まった。
吉原さんは残念そうな顔をしながらベンチへと戻っていった。
続く松山は球は当てれたもののセカンドゴロでチェンジ。
「さっきのは何か感触を残したな」
谷川さんが嵯峨さんに駆け寄って小声でささやいた。
「いちいち小声で言うこともないだろう。まあ、次からは要注意だな」
そういい、ベンチへ戻った。

二回表が終了。0−0か。試合は動かない。

 

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