第1話 燃え尽きることの出来なかった夏


「おっーとー!!打球がピッチャーめがけて飛んでいくー!!」
「煉矢ーーー!!!!」


「うわーーーーー!!!!」
「きゃっ!!」
「はぁ、はぁ・・・。夢?なのか・・・。」
「もぅ・・・。なんなのよ!?」

悲鳴に驚いた、女の子は椅子から落ちていた

「桜?何でここに居んの?」

飛び起きた青年はこう言った
どうやら、現状がわかっていないらしかった

「何が、桜?何でここに居んの?よ。せっかくお見舞いに来て上げてんのに。」

そう、彼らは病室にいた
県立の結構大きな病院である

「見舞い?・・・。そうか・・・俺、あの後・・・。」

ようやく、自分が今どういう状況なのか思いだしてきたらしい
自分が見舞いに持ってきたりんごの皮をむきながら、桜は言った

「そうよ、春の選抜甲子園第3回戦の相手だった新京阪高校の4番、浅倉君の打球を受けて、意識を失ったのよ。」
「そ、そうだ! 試合は!?試合はどうなった!?うっ・・・。」

全部思い出したのか、煉矢は桜の肩をつかみ、そう問うた

「ちょっとあんた、動いちゃだめでしょ!!あんた今の自分の状態わかってんの!?」

そういって、桜はすぐに煉矢をベットに押し返した

「えっ?」

状況は、思い出しても自分の状態を理解してはいなかった

さっきから、しきりに痛む左足に目をやった

「ん?俺、脚どうかしたのか?」

少しの間、沈黙が続いた

「おい、何とか言えよ。まぁ、たぶんあれだろ?骨折かなんかだろ?1ヶ月くらいで直るんだろ?」

怪我したこと自体には、そんなに暗い気持ちになることはなかった
別に、初めて骨折したわけではないし、怪我をしたことによるブランクはたしかに痛いが、そこまで重いものでもない
そんな気軽な感じで聞いたのだった

「あのね・・・、煉矢・・・。」

どうもにも暗い、桜の雰囲気に煉矢は少し不安になってきた

「なぁ、何なんだよ。早く言えよ!」


数分前・・・


「えっ!!?左膝前十字靭帯断裂!!?」

煉矢の母と桜は驚きを隠せなかった
打球が左膝に直撃し、マウンドで倒れこみ煉矢は意識を失った
そのまま、病院に運ばれ精密検査の結果を聞かされたのだった
煉矢は右投げ。踏み込んだ足に当たっただけに、思ったより悪くなったのだという

「そんな・・・。」

煉矢の母は、黙り込んでしまった

「じゃあ煉矢は・・・、いえ、御鳥君はもう。」
「残念ですがあ「そんな!?何とかならないんですか!?先生!!!?煉矢から野球を取ったら・・・。」
「ちょっ、ちょっとお嬢さん、落ち着いてください。だれも、彼が野球を出来なくなるなんて、一言も言ってませんよ。」

今にも泣き出しそうな、桜をなだめるように医者はそういった

「えっ?それじゃあ・・・。」
「えぇ、野球は出来ますよ。もちろん、今は無理ですがね。」



「そう、だったのか・・・。」

怪我の状態を聞いたときはさすがに、顔の引きつっていた煉矢だったが、話し終わる頃には落ち着きを取り戻していた

「頑張ろうね、煉矢。」

そう、桜は言ったが当の煉矢は、その様子ではなかった

「だめだよ、桜。」
「えっ?何がだめなの?」

桜には、煉矢のいってる意味がわからなかった


「靭帯の断裂ってのはな、そんな簡単に治るもんじゃないんだよ。半年・・・、いやもっとかかるかもしれない・・・。」

明るくなりかけていた、桜の顔がまた暗くなる
「だからさ、どんなに頑張って早く治しても、最後の夏の大会には出られないんだよ・・・。」
「そんなぁ・・・。」

ここに、一人の野球少年の熱い夏が幕を閉じた

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