第21話 伝説の投手
「よし、じゃあこい!!」
バシッとミットを叩き、赤城は声をかけた
右腕を一回し、ブルペンのマウンドに立つその顔は、すこし自信に満ちているように見えた
この赤城の構えが、煉矢にやる気を起こさせることも少なくはない
自分を大きく見せることで投手に投げやすくさせ、青いミットは投手の精神を落ち着かせるという、理由にするには十分なことであった
「じゃあ、まずは真っ直ぐからいくか!!」
グッと、ミットを前に出して構える
煉矢はコクッと頷き、振りかぶった
「あれから、いろいろと調整してみたんですよ!!少しでもいいんで違いとかあったら、言って下さい!!」
振りかぶった格好のまま、煉矢は声を張った
「分かった!!」
それ聞いて、何気なく構えていた赤城の目つきが変わった
−少し調整した・・・?
やはり、神藤に打たれたことを気にしてか?たしかに打たれはしたが・・・・、はっきり言って今の御鳥と神藤のレベルの差が生んだ結果・・・
少し調整したぐらいでどうにかなる問題ではないぞ・・・!!−
そして、煉矢の右腕から白球が投じられようとしていた
−フォームを見る限りでは、あまり変わったところはないようだが・・・。−
シュッ!!
パーン!!!!
投じられた球は、唸りを上げて赤城のミットに突き刺さった
「ふぅ・・・。」
それが最初にあげた、赤城の感想だった
試合で、キャッチャーが主審にストライクを取ってもらうためにする、ミットをくっと内側にひねる行動をとって
そして、その腕はしばらくそのままだった
「どうでしょうか??」
投げ終わった、煉矢は書き上がった小説の感想をねだるかのように、そういった
「あ、あぁ・・・。いい球だった・・・。」
なんともぎこちない感想を漏らし、すっと立ち上がり返球をした
−かなり速い・・・、ってことはなかった・・・・はずだ・・・・。
あれからそんなに日も経っていない・・・、たとえ筋力トレーニングを積んだとしても球速が上がるほどにはならないはず・・・。
ましてや、御鳥は速球派。それなりに速い球を持っているだけに、簡単に球速は上がらない・・・。
だが・・・。−
自分の感想にも疑問を感じつつ、赤城はそう考えていた
「どうしたんだ、赤城?」
赤城の不自然さを気にしてか、小松は赤城に声をかけた
それを聞いて、神藤、矢原、香取も赤城の方に目を向けた
「・・・うだ、小松さん!!スピードガン持ってきてもらえませんか!?」
一言そういって、赤城はまた黙って考え込んでしまった
「あ、あぁ。分かった、今取ってくる。」
「赤城のやつどうかしたのか?」
「さぁな、ただ何も理由なくスピードガンを要求することもないだろう・・・。第一、御鳥の球も以前とあまり変わったようには感じなかった。
ただ、少し・・・・。」
「少し?」
「いや、なんでもない。」
数分すると、小松はスピードガンを手に戻ってきた
「もって来たぞ!!、そっち向ければいいのか!?」
「すいません、お願いします!!よし御鳥!!もう一回今の球を投げてみろ!!!」
再び、そこに腰を下ろし言った
「わ、わかりました!!」
シュッ!!!パーン!!
先ほどと変わらない球を投げる煉矢・・・・、やはり赤城の顔は変わることはなかった
「どうですか!?」
今度は煉矢ではなく赤城が小松に対し、そう言った
小松は少し驚いていたが、スピードガンに表示された球速を読み上げた
「143キロだ!!」
「143!?」
「何が言いたいのか、はっきりしたらどうだ?」
赤城の反応に少し、いらだった神藤が言った
「リューク・マイルソン・・・って、知ってるか?」
ミットをはずし、その名を口にした
「リューク・マイルソン?あの、<伝説のスナイパー>と謳われたリューク・マイルソンか?」
神藤にした質問に、小松が答えた
「そうです。
通算5813奪三振、499セーブと言う脅威と異例とも言われた記録を打ち立てた
シアトル・シャイニングスの・・・いや、世界一のクローザー、リューク・マイルソン・・・。」
「それが、どうかしたか?」
「その伝説の投手の投球シーンを映したビデオを何回か見せてもらったことがあるんです。
上から、横から、後ろからや、キャッチャー目線など様々な・・・。もちろん、引退した後ですがね。」
「そんなビデオ、どこから・・・。」
「それは秘密です・・・。」
赤城の微妙な微笑も多少気にはなったが、とりあえず話の続きを聞くことにした
「それで?」
「その球に・・・、<ワイズブリット>に・・・似てるんですよ・・・。」
「えっ!!?」
喚声を上げたのは、煉矢だった
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