第22話 魔球?正体?アンタ誰?


ワイズブリットに似ている、その発言が周囲を静まり返らせていた
煉矢が声を上げてからしばらく、沈黙が続いた

「おい、赤城!ワイズブリットってアレか?」

小松は先ほどとはうって変わり真剣な表情をしていた
当然彼だけではない、それだけの大投手のウイニングショットだ・・・、知らない人はいなかった

「はい・・・。
ワイズブリット・・・、その名のとおり<唸る弾丸>のようだと言われていたことからその名前が着いたといわれる、ファストボールです。」

「たしか、詳細はまだ良く分かっていないという話だな・・・。」

さすがに、神藤もその話は知っていたように言った

「あぁ・・・。だが、対戦したバッターは口々にこう言うらしい・・・。<他の投手と何が違うんだ?>とな・・・。」

赤城の言葉に−いや、正確にはリュークと対戦した打者達の言葉だが−、皆言葉を失っていた
もちろん、投げた当の本人も・・・
そして、赤城が知る限り説明しようかというところで、場内アナウンスがなる

<えぇ、私だ!!あと、もうすぐ試合開始だ!!相手チームもまもなく着くということだ!!
全員、一塁側のベンチに集合してくれ!!以上だ!!>

という、声が頭上に設置されたスピーカーから聞こえた

「残念だが、赤城の説明はお預けらしいな。とりあえず、ベンチへ行くぞ。」

「はい!」

ワイズブリットについて・・・気になるところだが、彼らはベンチに向かった




4人がついたころにはすでに全員揃ってなにやら、話していた

「どうかしたんですか?」

一番手前にいた選手に声をかけた
一番手前の選手と言ったのも、実はまだ全員の名前も覚えていなかったからである

「あ、あぁ。相手チームのメンバーの名前・・・、見てくれよ。」

その選手は一枚の紙を煉矢に見せた。
メンバー表である、相手チームの名前そして、選手名が記載されていた

「これに何かあるんですか・・・?」

メジャーには特に詳しくなかった煉矢には、皆が何に驚いているのか皆目見当もつかなかった
そんな煉矢の後ろから、貸してみろという声が聞こえその主の方に紙を差し出した
声の主、小松はその紙を上から順に見ていく・・・クリーンナップと相手投手を見て小松の顔が変わった

その紙を手に、赤城は監督の下へ向かう

「監督!!どうして彼らが・・・・、<ルナ・ブライトン>や<ルコール・ニコルソン>が、こんな練習試合にでるんですか!?」

「誰・・・なんですか?」

そう聞いたのはやはり煉矢であった
先にも述べたが、世界のストッパーでさえかろうじて知っていたようなもの、たとえ小松の挙げた名前の選手が有名であっても知っているはずもなかった

「ルナ・ブライトン、俺がこっちのほうに居たときトリプルAに居たはずだ。そのときは、5番レフトだったかな・・・・、ただ、こういうところに出てくるメンバーだとやはり4番なのだろうな・・・、なんでこんな試合に出てるのか分からないが・・・。
そして、ルコール・ニコルソン、上(メジャーリーグ)も経験したことある本格派だ、投げ合ったことはないが速い球と遅い球のコンビネーションは絶妙だということはよく聞いていたな・・・、ルナ・ブライトンと同じくこんな試合で出てくるような選手ではないはずだ・・・」

いつもいたって平穏な小松もメンバー表を見て、人が変わったように驚いている
その表情は、本当に普通ではなかった
ベンチに座り握り締めた左の拳を、右手でグッと握り締めその手を見据えていた
そして、しばらく黙ってままだった小松の口がおもむろに開いた

「あなたは・・・、いったい何者なんですか・・・・。」

あっ、それ俺も知りたい・・・とでも言わんばかりに、皆興味あり気に監督のほうを見る
小松が言うのも無理はない・・・
この監督、実はいつもサングラスに帽子をかぶっており・・・・、人前でしゃべらないということはないが、当然かといわんばかりに名前をいうこともなかったのだ

「そのうち・・・、話さなければいけない状況にはなると思っていたがな・・・。」

彼は、もう話してもいい・・・そんな感じだった

「わかった・・・、試合が終わったら話そう。いや、今からやるチームに勝てるなら、話してもいいだろう・・・とでも言っておこうか・・・。」

そこに居る誰にも、彼の意図が全くつかめなかった
しばし沈黙が続いたが、それを破るかのように煉矢は言った

「黙ってても仕方ないですよ!!、勝てば全て分かることじゃないですか!!監督もそういってますし!!」

「あぁ、そうだな・・・。こんなとこで黙っていたって仕方ない。勝って・・・、全てを聞かせてもらいますよ!!」

煉矢の声に、不安要素を振り払ってもらったのか元気を取り戻し、そう言う小松

「じゃあ、スタメンを発表する!!
一番 セカンド神桐!!(守備の買われショートからコンバート、打順は足の速さから)
二番 ファースト矢原!!(チーム随一のバント技術、さらにそれを生かす俊足)
三番 ショート鬣!!(練習試合でも見せたシュアなバッティングから)
四番 サード神藤!!(問題なく、チームナンバーワンの打撃力を誇る)
五番 レフト五味!!(非力ながらも、ミート力とインコースも右に放てる技術を買われ)
六番 キャッチャー赤城!!(打撃力は問題なく、クリーンナップを打てるが守備位置上六番)
七番 ライト仙洞!!(ミート力に不安要素はあるが一発を狙える貴重なバッター)
八番 センター牧場!!(守備力、肩力、走力から)
九番 ピッチャー小松!!(言うまでもなく)
以上だ!!」

やはり、いや当然というべきか、スタメンで煉矢の名が呼ばれることはなかった
別にそれに不満を抱くほど、自分の実力を高く見ているわけでもないので、何も問題はなかった
メンバーを発表しているさなかに、相手チームが現れたのか少し外が騒がしくなっていることに監督が気づく

「おっと、着いたらしいな。ちょっと行ってくるから、あとは適当に調整しておいてくれ!」

「あっ、はい。」

そういって、監督は入り口に向かった

「あの人、いったい何者なんですかね・・・?」

赤城は監督のほうを見ながら何気なしに、小松に聞いた

「さぁな・・・、まぁ試合が終わったら分かるだろう・・・。」
「そう・・・ですね・・・。」

相手チームはアップがまだということで、しばらく調整しつつ待機という形になっていた
小松と赤城は、身体をほぐす意味でも軽くベンチまでキャッチボールを行っている

「小松さん、今日の配球はどんな感じで行きましょうか?」

いつもは当然キャッチャーが8,9割考えることを尋ねた
相手のことを自分よりも良く知っていると思っていたからだ、しかも小松の口調から相手チームの数人のレベルもある程度聞いた
それが決して低くないということを、だからなおさらだった

「お前の思うようにやったらええよ。
たしかに、相手のチームのメンバーの一部はよう知ってる。対策立てたところでそれがほとんど当てにならんこともな。」

赤城にはどこかいつもと違う雰囲気に見えた
いつもは、気負っているものや不安がっているものの緊張を解きほぐし、元気付ける役に回っている小松が少し心配になってきていた

(どうしちまったんだ?いつもの小松さんらしくない
このままだと、いくらいい球放ってても打たれちまうぜ・・・・。ここは、俺が何とかしないとな・・・。)

「分かりました!全部俺に任せてください!!
御鳥が言ってましたよね?勝てば、全てが分かること・・・と!」

「ふっ・・・、そうだったな・・・。」

「小松さん、赤城さん、試合開始だそうです。」

ちょうど話が終わりかけていたころに、煉矢が二人を呼びに来た
その顔には、調整していただけとは到底思えないほどの汗が見えた

「あぁ、すぐ行く・・・。」

「じゃあ俺、先行ってますから!!」

「お、おい、御鳥。」

「何ですか?」

すぐ、その場をあとにしようとしたが足を止めて踵を返した

「あ、いや、なんでもない。」

「そうですか?じゃあ、行きますね。」

「じゃあ赤城、俺達も・」
「あいつ・・・、最近いっつもなんですよ・・・。」

煉矢がその場を離れていったのを確認し、そういった

「俺達が休憩しているときも、あいついないんですよ。どこ行ったのかと思ったら、一人で汗だくになって投げ込みしてるんですよ・・・。」

そのときの情景を見たまま話し始めた
当然、一人と言ったためキャッチャーがいるはずもなく、的の絵をめがけて投げ込んでいる姿
よく言うところの「的当て」とでも言うところか
そして、なぜかその的には同じ箇所にしかぶつかった跡がなかったことなど・・・・

「あいつはまだまだうまくなる。」

その話を聞いていた、小松は不意にそういった
何がうれしかったのかは分からない、ただ隠れて一人練習していたことや同じ箇所にしか跡がないなどの具体的な理由から見せた顔ではなかった



そして、不安、期待、疑惑、謎
いろんなことが渦巻いたまま、仕組まれたとも言える練習試合が始まった

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