第23話 活
大きな球場とはいえただの練習試合、観客がいるはずもなく球場内はシーンとしていた
その沈黙を破る主審の掛け声と共に試合が開始された
両チームのベンチには約20人ほどの選手が入っていた
こちら側はともかく、相手チームも特にメジャーリーグとは関係のないチームなのでその人数らしいと、監督から聞いた
「なんか、緊張しますね・・・。」
煉矢はベンチ内で本重と話していた
本重:紅白戦で煉矢と共にベンチに居た選手 なぜか、小松は彼のことを知っているようだったが本人は覚えがない
「そうだね・・・、なんたってメジャーリーグを経験したって人がいるくらいだからね・・・。」
二人とも、とても選手としてベンチに居るとは思えないような発言だった
方やただの高校卒業前のピッチャー、方やただの大学出の外野手、そんな観客じみたことを言っているのも仕方ない
だが、そんな考えもそろそろ抜けてもらわないと困るな・・・・と、二人の会話を聞いていた神藤は思った
「おい、お前ら。自分達も選手だということを忘れるなよ・・・。」
「す、すいません。でもなんか相手が相手ですし・・・。」
今から試合をする選手だと分かっているのか!?・・・神藤は思わずそういいかけた
しかし、相手はまだ高校生気持ちはわからなくはないそう思ったからだ
とはいっても、このままでいけないことは事実。
あくまでも選手だと言うことは忘れるな、そう言ってヘルメットとバットを手に取りそこを離れた
「怒られちゃいましたね・・・。」
煉矢は苦笑いをしながら本重にそういった
「でも、彼の言うことが正しい・・・、それは分かってるんだろ?」
「はい、出番もあるかもしれないですし・・・、いつまでも子供みたいなことは言ってられませんね。」
「なら、室内ブルペンにでも入っている?
相手を見ていたいかもしれないけど、今後は力が分からない人たちばかりを相手にすることになると思うから、あまり参考にもならないと思うし・・・。」
本重の言うことはもっともだった
今後戦っていくことになるチームはどこも得体の知れないものになるだろう
今回のようにメジャーリーガークラスの人が出てくることはないかもしれないが、アマチュアにもかなりの力を持った人たちが埋もれているはず
日本が例外でもないように・・・。しかも、日本人よりも一回りも二回りも体格の大きい人だって当たり前のようにいる
データ野球などと言うのは転で参考にならないと言っても過言ではないかもしれない
「そうですね、お願いします。」
そして、二人は試合が始まるのを分かっていて、あえてその場を離れた
監督の前を通って行ったが、何も言われなかった
おそらく、先の会話が少し聞こえていたのだろう
試合はすでに始まっていた
先に神藤がバットとヘルメットを取っていたように、彼らは先攻だった
だが、相手投手はメンバー表に書かれてあったとおりルコール・ニコルソン、メジャーリーグも経験している大投手
そんな簡単に打てるはずもなく、トップバッターは打ち取られていた
「どんな感じだ?」
ベンチの面々からそう尋ねられる
「まだまだ、余力は十分って感じかな・・・。
見たこともないような選手に全力など出せるか!、そう言われてるような気がするほど、余裕が感じられた・・・。」
いきなり、戦意を喪失させられたような感想を漏らしていた
「そりゃ余力はあるわな。まだ85マイルちょいくらいしか出てないんじゃないか?
それがすごい、みたいなこと言ってるんじゃ、先が思いやられるぞ?」
何名かの顔が引きつっている中、小松には余裕がうかがえた
「小松さんの言うとおりだ。
たしかに、今の俺達じゃ足りない部分があるかもしれない。だが、始まったばかりじゃないか!!
これから上手くなっていけば良いんだよ!そうだろ??」
「あ、あぁ。そうだな・・・。」
「誰が足りない部分があるって?」
軽く活を入れる赤城に、神藤が声をかけた
そして、どこかを指差しているようだった
「ん?」
その指先は、3番の鬣がヒット性のあたりを放ったほうに向いていた
「おっ?やるじゃないか。」
「そういうことですよ。
最初から足りない部分がある・・・なんて言ってないで何も考えず全力でぶち当たって良いんだよ!!」
神藤はいつになく張り切っていた
おそらく、アマ最高投手と呼ばれ多少なりともうぬぼれていた心を、小松がそして、この環境が解き放ったのかもしれない
そして、その一言がこの面々を、野球少年へと変えたのである
「そうだな!みんな全力でぶつかっていこう!!」
「おう!!」
−ふっ・・・、ちゃんと分かっているじゃないか。
その心が、やる気が、メジャーリーガーを退けるかもしれないな・・・。−
そして、勢いに乗って打席に立った神藤
三遊間にいい当たりを放つが、さすがに相手もそれなりの選手、確実にさばきチェンジとなった
「よし、守りだ!!守備をさくっと終わらせて、勢いをつけるぞ!!」
小松はマウンドに登った
軽く足場を均そうと足元を見ると、ルコールの踏み込んだ後が見受けられた
その辺が日本人との遺伝子の差と言うものだろうかと、歩幅の長さに感心していた
しかし、そんな連中にもまれながらもやってきたと言う気持ちが、不安要素など押しのけていた
そして、投球練習を済ませ、サインを確認する
−低めか・・・だがインコースか・・・。おそらく初球は見とみてのリードだろうな。
相手とて、俺たちのことを知らないのは同じ、いきなり手は出してこないだろうからな・・・。−
コクッと、うなずき振りかぶった
−初戦だ、神藤も小僧も力を試したがっているはず・・・、しょっぱなから全力でいくか!!−
「おぉぉぉーーー!!」
シュッ・・・・パーン!!
勢いのあるストレートが赤城のミットに突き刺さった
何の迷いもなく、ストライクがコールされる
その勢いもさることながら、ミットに寸分の狂いなく届いたところはさすがといったところか、赤城の表情も良かった
「ナイスボールです!!」
それに呼応したかのように、勢い良く返球する
相手バッターもなかなか渋い顔をしていた
「見せてもらおう・・・、お前達の野球を・・・。」
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