第4話 それぞれのための別れ


二人は、バスの中にいた
どうやら、二人の目的地
すなわち、ホームページに書かれていた場所はかなり、遠いらしかった

「ところでさぁ、何で俺が野球しに行くのに、桜が着いてくんの?」
つり革を手にして、突っ立っている煉矢が、桜に言った

「あ〜ら、あなた一人でたどり着けるの〜〜〜?」
こちらにやった、目は笑っていた

「あっ・・・。」
煉矢の頭の中で、気づかされるものがあった
−俺、方向音痴な上に、バスなんか乗ったことなかったっけ・・・。−

「少しは、私のありがたみがわかって?」
「はい、感謝しております・・・。」
「わかればよろしい。」

はたから見れば、アホな漫才コンビにしか見えなかった
そうこうしているうちに、バスはどんどん、彼らの知らない場所へと入っていった

「おい、桜。この辺、知ってっか?」

周りの景色が、変わり行くにつれ煉矢は少しずつ不安になっていた
さっきまで、晴々していた・・・。
しかし今は、さっきとはうって変わって、バスは徐々に暗い森の奥へと入って行っていた

「私も全然知らないよぉ、ただあの集合時間で、このバスに乗れとだけ、書いてあったから・・・。」

桜の言い方に、ますます不安が増していった
しばし、沈黙が続いた
 ・
 ・
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「そうだ、運転手のおっちゃんに聞けばいいんだよ。」
桜の顔にも光がさしたように、明るさが戻った

「そうよ。聞いてみて!」
そして、煉矢はさくさくと運転席まで歩いていこうとした

「うん?」
しかし、すぐに足を止めてしまった
「どうしたの?」
「それが・・・。」

桜は身を乗り出し、煉矢と同じ方向に視線を送った

「こ、こんな・・・、ことって・・・。」

そう、彼らが何気なく乗っているバスには誰も、乗っていなかったのだ

「いったいどうなってんだ?」

煉矢から、不安はなくなっていた
しかし、逆にわけわからなさが、出て来ていた

「と、とにかく、おっちゃんに聞いてみるわ。」
「う、うん。」

煉矢がそういって、動こうとしたとき
バスは止まった
あたりはやはり、先ほどと変わらず森の中だった
特に特別な感じはなく、単に「森」という感じであった

「着いたみたいね。」
桜は、ほっとしたような、まだ不安なような、微妙な面持ちであった
−なんだ?いったい・・・。−
「さぁ、着きましたよ。」
と、バスの前方から声が聞こえた

「あっ、運転手のおっちゃん。あのさぁ、ここどこなの?」
「さぁ?」
「さぁ?って・・・。」
「私は、このバスをここに運んでくれと頼まれただけですから・・・。森に入ってからは、詳しいことはわかりません。」
「そうなんか・・・。」
「まぁ仕方ないんじゃない?もともと、そんなものがあるなんて知らなかったんだし。」
と、桜は半開き直り気味に、言った

「まぁ、それもそうだな。」

そういって、二人はバスを降りようとした
煉矢が先に降り、桜が降りようとすると

「あっ、そうそう。たしか、野球をする気のない人は、ここまでとか何とか言ってたな・・・。」

そんな、と桜はそこで、立ち止まった
しかし、煉矢はそんな桜に

「たしかになぁ・・・、こんなやば気なところに女の子を連れて行くわきゃいけないわな・・・。」
「煉矢・・・。」
「大丈夫だよ桜、やば気っつたって、野球しに来てんだ。殺されやしねぇよ。なっ?」
「う・・・、うん・・・。」

それでも、心配そうな桜にこういった

「帰ってきたときには、また桜に俺が野球してる姿、目に焼き付けさせっかんな!!覚悟しとけよ!!」

その言葉を聞いて、桜の表情は明るさを取り戻した

「じゃあ、おっちゃん!!桜頼むぜ!!」

運転席に向かって、煉矢がそういうと意気のいい、任しとけ!!という声が返ってきた
それに安心した煉矢は、桜をバスに戻し

「じゃあ、桜!またな!!」
「うん!!、待ってるからね!」

そういうと、バスの扉が閉まり、走り出した
煉矢は、しばらく小さくなっていくバスを眺めていたが
桜は、煉矢が見えなくなるまで手を振っていた、ずっと・・・、ずっと・・・。


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